やけくそ万防日記1 万引きは些細な問題?万引問題での私のスタンス

(万引きは些細な問題?)
今や警察に届けられる万引犯罪は1年で約11万件にのぼり、すべての犯罪の中で12%近くを占め、また、検挙される犯人の3人に1人が万引犯だということをご存知だろうか?
そしてその万引犯の4割以上が高齢者だということや、店の下着をごっそりスーツケースに詰め込んで持ち去る集団万引(これが万引か?)に歯噛みし、万引きした本が大量にインターネットオークションやネットフリマを通じて処分されていることに切歯扼腕する小売業者とりわけ店舗の担当者が多数いることは、世間様にはあまり知られていないことだ。
わが国で一体どれぐらいの商品が万引されているのだろう。個々の事業者にはこれまで公表したところはない。その理由は、それぞれの店舗も確たることはわからないこともあるが、総じて言えば、知ろうともしていないし、知っていても事業者の秘密として取り扱われ、明らかにしようとしないからだ。だから、小売業全体の推測数値、例えば約4615億円(全国万引犯罪防止機構が             2010年発表)、約98億ドル(THE GLOBAL RETAIL THEFT BALOMETER 2014~2015)があるぐらいで、そんなものかというぼんやりとした合意が生まれているだけ。
この推測数値を否定するような根拠は誰も持ち合わせないが、例えばアメリカは1年に約5兆円の万引があるとFBIが推測していることなどを考え合わせると大きくは間違っているわけではないものと思う。数百億円というわけではないと思う。が、説得力に乏しいし、個々の事業者が聞かれても答えないのだから、社会一般の方が、万引きは大した問題ではないのかな、と思っても仕方がない。
それもあって、「万引きなぞたいしたことではない、目くじらを立てるのは時間と労力の無駄だ。」という声はなお根強い。「万引きで命をとられるわけではないし、店がつぶれるわけでもないだろう、そもそも盗られるような置き方をしているのだから、ある程度の万引きは仕方がないだろう、小売業は大いに儲けているではないか。」と言う方も少なくない。
「万引きする人にも貧困などいろいろ事情があるのだろう、それもわかってやらなければ。病気の人も少なくないし、認知症になりかけの老人もいるだろう。それを皆普通の犯罪者扱いするのは問題では。」という声も小さくはない。
一体、万引きをどう扱えば、よいのだろう、正しいのだろう?どれぐらい一生懸命対策をすればよいことなのだろう?この問いに、真正面から、全体を俯瞰して、客観的に、総合的に考えた人はわが国にはいない、と思う。少なくとも、そんな研究者はどの大学にもおられない。アメリカには、多くはないが、おられるが、我が国では、こんなことを研究しても勉強しようという学生もいないし、これを支援する方も出てこないのだろう。被害者も、警察も、弁護士も、医師もそれぞれがその立場でやれることをやり、それでおしまいというのが現状だと思う。
それでよいのか?できれば、マイケル・サンデルハーバード大学教授に、「白熱教室」を開いてもらいたいぐらいだが、まずは自分でしっかり考えてみるほかない。

(私のスタンス)
今年の7月11日付け毎日新聞朝刊の論点欄に万引問題が取り上げられ、私の意見も載せていただいた。お読みになった方もあろうと思うが、字数制限で私の原稿からはかなり短いものとなった。その原稿には私の問題意識をまとめて書いてあるので、まずこの文章をお読みいただけば、これから私が手を変え品を変え、興味深く思っていただけるように書き連ねようとする万引問題への基本的スタンスをお分かりいただけると思う。

「万引問題は、古くて新しい世界共通の課題、日本で本格的に取り上げられたのは、やっとこの15年ほど前からだ。2003年暮れに都庁で都、警視庁、弁護士、小売業界、教育関係者などがはじめて一堂に会し、実態と対策を喧々諤々議論、翌年には早速、都万引防止協議会ができた。また、05年には、各種小売業団体や各地の組織も加わって、当機構が発足。現在86組織などが参加し、定期的に青少年の意識調査や学校での防止啓発活動、小売店の被害実態調査などを行ってきた。
長年、万引きは青少年が中心の軽微な犯罪とみられ、たかが万引と言われてきたこともあって、最近では全刑法犯が大幅に減少しているのに、万引は微減で、万引の刑法犯に占める割合は11%以上。今や警察の検挙人員の3人に1人は万引き犯だ。我々の小売店調査等による推計では、年間被害は4600億円以上にも及ぶ状況が続いている。
その万引の実態がこの5、6年ほどの間に大きく変わってきた。まず外国人による集団窃盗が横行している。中でも高額の渡航資金の返済に苦しむベトナム人留学生の存在が目立つ。インターネットオークションやフリマの発達で転売がしやすくなったことが犯行を助長している。最近の事案では東京や大阪で1000冊以上の盗んだ高額書籍をネット販売していたケースがあった。小売店の中でも書店の被害は深刻だ。また高齢者の犯行が増えているのも特徴だ。独居の高齢者の犯罪自制力が弱まっているのだろうか。
「出来心による犯行、初発型非行」の域はとっくに超えた深刻な社会問題となっているのだが、解決の兆しは見えず、店舗の方々は無力感で覆われている。理由はいくつかある。まず、一件の被害は少額のため刑事司法の犯罪抑止機能に限界があること。万引犯の厳罰を求める小売店の方々の切実な叫びは、大半過大な期待に終わる。「お客様は神様」であるという営業上の謳い文句が万引対策をどこかで躊躇させること、「万引きされていることを知られては店の信用を失う」という不可思議な保守的思考がはびこっていること。要は、万引対策は発想からしてフリーズしたままなのだ。アメリカの小売業界では株主が厳しい目で万引きを含むロス問題を監視し、情報開示を求める。それに、「商売は競争するが万引対策は協力してやる。それがお互いのためだ」と万引対策の企業間協力が効果を挙げているのに。万引被害を世間に知らせてこそ、支援は広がる。早く、古い神話やくびきから抜け出し、同じ被害に苦しむ同業者と協力して、孤独な防御から幅広い共同戦線の構築に成功しない限り、ロス対策という小売業者にとって重要な経営問題を解決できないだろう。
それでもここに来て新しい動きが生じている。被害が重なる同業種や地域で万引き犯の情報交換が徐々に始まってきた。まだ一部の書店やドラッグストアなどに限られているが、警察も加わり、組織的万引犯罪や悪質常習者の万引対策を進めている。進化した顔認証機能なども生かして、被害者で万引情報を共有・活用する新しい仕組みを取り入れようという動きもある。ネット上での盗品の氾濫防止対策の検討が、当機構と関係企業との間で、本格的にスタートした。
万引問題は、ちゃちな話ではない。今や、大きな社会問題であり、企業の死活問題。古い殻を破り、実態から目をそらさず、まともな対策の推進が急務。いつまでも万引きはけしからんと言っているだけでは情けない。万引対策全般をリードする心ある小売業の経営者の登場が待たれる。それに、警察はじめ関係官庁の本気の主導的取組みを期待する。当機構は全力でその動きに応える。
映画「万引き家族」では製作段階で当機構も「万引を助長するような内容にしないという前提で」取材協力した。この映画が万引問題について多くの方々に考えていただくきっかけになれば、と期待したからだ。映画全体については何とも言えないが、万引対策を進める私自身は、映画の中での話とはいえ、親(大人)が子どもに万引きをさせるシーンは、見たくない。日ごろから、同様の事案を聞いては、いったい子どもに何ということをさせるのか、子どもの将来はどうなるのかと痛ましく感じているからだ。また、「店にある物は誰の物でもない。店がつぶれなければ(万引きしても)いい」というようなセリフがあるそうだが、曲解が広まらないことを願う。」

次号に続く

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