やけくそ万防日記2 私は何者、何が私を突き動かすのか?

皆さん、これをお読みいただきありがとうございます。また、新年おめでとうございます。
昨年、2回「やけくそ万防日記」を出させていただきましたが、この連載をはじめる時期をめぐって、いろいろ行き違いがあり、今年から連載開始予定で作った原稿が掲載され、「今年」とか、「昨年」といった表現が誤っていました。お詫びして、訂正させていただきたいと思います。よろしくお願いします。
さて本題です。

(東京都の取組み)
私は、2015年6月からNPO法人全国万引犯罪防止機構の理事長を務めている。この法人は、2004年6月、当時私が東京都副知事として、治安・青少年問題を担当していた頃に設立された。
当時の東京は犯罪件数が戦後最高となり、天井知らず。外国人犯罪が横行し、新宿歌舞伎町は暴力団が縄張りを維持するため示威行為を繰り返し、黒のタキシードを着た若い客引きが道路を塞ぎ、ピンク色に染まる何でもありの町となっていた。バブルが崩壊し、失われた10年と言われ、人々が挫折感を持ち、自殺者が3万人を超える時代でもあった。石原慎太郎東京都知事は、都民が不安を抱える中、安全な町づくりを進めることが重要だと考え、警察任せにせず、東京都としてやれることはないかと、治安の専門家を求めていた。
白羽の矢が立ったのが当時広島県警察本部長をしていた私である。跋扈していた暴走族問題を解決した状況(拙著「子どもたちを救おう」幻冬舎、で暴走族の若者を社会に取り戻す県全体の本気の取組みを紹介している。)はNHKのクローズアップ現代で取り上げられてもいたし、そのことも石原さんはご存知だっただろうが、役人として断ることのできない人事異動で、誰も知り合いのいない東京都庁に乗り込んだ。
何をすればよいのか誰も知らない、何が正解で、何を達成すればよいのかわからない、先行きの見えない仕事だった。ただ、マスメディアは何が始まるのか興味津々だった。
私は、治安問題は警察が中心になってやるものだが、彼らも手が届かない分野で、都民が何とかしてほしいということに絞って、都庁の力をうまく生かして、取り組もうと考えた。
当時これはおかしい、何とかしなければと多くの人が思っているのに、解決できずにいた社会的課題に注目した。20万人を超える不法滞在者問題、歌舞伎町をはじめとする盛り場の浄化、増え続ける犯罪の脅威から安心感を取り戻すこと、電車内での痴漢問題等々について、取り付かれたように新たな対策(思いつき?)を繰り出したのであるが、多くの方々のご支援や本気の活動があって、結果的には結構うまくいったのだった。歌舞伎町もそれなりに秩序を取り戻したし、不法滞在者問題は警察と入管の新たな連携を後押しすることで劇的な変化をみた。多くの都民が自らの町は自分で守るとボランティア活動に取組み始めた。都内の主要な電車には女性専用車両が設けられた。
万引問題はその中の一つである。きっかけは、その年に川崎市で中学2年生の男の子が古書店で万引きし、追いかけた店主から逃れようと降りた踏切を渡ろうとして電車にはねられ、死亡した事案の報道である。記事は、そこまでするのが良かったかと店主を責めるようなものもあり、店は閉店を余儀なくされたというものだった。それまで万引にさほど関心を持たなかった私が、たかが万引とは言っていられないなと感じたのだった。

(歴史的な万引対策会議)
私の思いを伝え聞いたらしい、都内の書店の代表者らの皆さんが大挙して私を訪問され、「あなたは本気で万引問題に取組んでくれるのですか。私たちの被害は大きく、万引で経営が成り立たず、閉店に追い込まれる店も出ているのです。」と訴えられたのである。
その後すぐの2003年12月、都庁の会議室で開いた、万引に関わる多くの分野の方々の激論は、万引問題の歴史的な転換点となった。予定時間をはるかに超え、メディアの方々の注視の中で、夜の8時まで延々6時間、繰り広げられた。
古書店が万引した本を買い取るから万引が減らないのだと責める書店の代表者、警察や検察の処分が甘いから万引犯が増長するのだ、親の中にも万引ぐらいで大騒ぎするなと言う親も少なくない、有名タレントがテレビで万引ぐらいやったことあるでしょうと言う風潮が問題だ、万引されないように小売店はもっと自衛すべきだ、偽の防犯カメラをつけているようでは万引犯に馬鹿にされる、店内で万引犯を捕まえても警察は受け取ってくれないのはどうしてだ、学校は子どもに万引のことを教えているのかなどなど。
そのやり取りを調整していた司会役の弁護士もたじたじとなるほどの熱気で、私は万引問題が多くの方にとって切実な問題であることを、正直、はじめて知ったのである。この会議はその後も継続して行われ、翌年の6月には皆で合意した対策が採択され、万引問題での総合的取組みを、警察を含め関係者皆で、はじめて行うことになったのである。その内容は当時の課題や雰囲気を示していて興味深いので、皆さんにも目を通していただきたいので、次回に紹介したい。
このような動きの中で、全国万引犯罪防止機構は発足した。万引きは本屋だけの問題ではない。多くの小売業者にとっても重要な課題、様々な小売業関係や防犯関係の団体が加わり、本格的な取組みが始まった。
私自身は、まだ現役の役人であったし、その後民間で責任ある仕事をしたこともあって、これに関わることはできなかったが、2011年6月に東京ビッグサイトの社長になったころから、仕事の合間を縫って機構の活動に加わった。当時この機構の理事長をやっておられた著名な川上和雄弁護士の下で副理事長をしていたところ、彼が逝去された後を託されたのである。

(お人好しの集団)
長い自己紹介である。わかってはいるが、この日記はこの先うんと長いので、いずれ皆さんは、こいつは一体何奴だと思われるに違いないから、最低限わかっていてほしいのである。
さて、万防機構の理事長は無給である。支払いを受けるのは、地方に出向いた時の交通費実費だけである。これをやったから、ご褒美がいただけるというものではない。それに、万引対策はかなり難しい。関係者多数で誰が解決の責任者かわからない。時に意見が対立して嫌な思いをする。だから、多くの時間を費やし、知恵と汗を絞っていろいろやってはじめて少しは動くという代物である。真剣にやらないと何も動かないので、やる以上は何かをとつい一生懸命になる。それもあって、皆で結構いいこともやってきた。おいおい説明するが、なるほどということを結構やってきたと自負している。
ところがである。被害者たる小売業の方々に大いに感謝されたことはほとんどない。新しい対策をやるために、必要な資金の提供を求めても、お応えいただける事業者はごくわずかで、大半は丁重にお断りをされるか、小額のご寄付をくださるだけである。私は世間知らずだし、人格識見とも人に抜きんでているわけではないので、正直腹の立つことも少なくない。
被害者の方々が大して期待もしていないのなら、こんな団体は苦労して維持するまでもない、解散してしまおうと叫びたくなる気持ちは消えることなく潜在している。それを言ってみたところで、誰も助けてはくれないのもよくわかっている。あなた方は好きでやっているのでしょう、やめる、やめないはご自分でお決めになればと言われるのが落ちである。そうか、俺はただのお人好しか。当機構はお人好し集団か。それは悔しく、悲しいことだ。
でも、なぜ、この団体は15年も存続しているのだろう?我々のホームページにはアクセスが多く、開催した会議にはたくさんの小売業者の方々が来られ、地方からも講演依頼が結構舞い込んでくるのだろう。万引のことを知りたいと思えば、当機構に聞くのが一番とよく問い合わせもある。ニーズがあるのは間違いない。
私の古巣の警察も、東京都も、頼めばいろいろ協力を惜しまずやってくれるので感謝しているが(本当はもっと自分たちでやってほしいと思ってはいるが。)、彼らも当機構をむげに扱わないところを見るとそれなりに価値を見出してくれているように感じる。
少しは期待してくれる人もいるのだから、お人好しでもよい、そう言われてもよい、自分がしたいことをやるのだ。ノーベル賞を授与された本庶先生ではないが、「何ができるかではなく、何がしたいかだ。」という言葉に励まされて、あきらめずに、よく考えて、皆で知恵を出しあって、力を合わせて。そうすれば道は開かれると信じよう。

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