やけくそ万防日記3 15年前、未開の万防対策に光が!

前回に書いたように、万引きで憤慨している被害者らがたくさんいるのに、大した対策が取られないでいたまま、いわば手付かずの状態だった万引対策。これに焦点を合わせて、根底から検討してみようという動きが突然生じたのである。この動きがどこに収れんするか誰もわからないまま、このままではだめだという思いを共有しながら、あきらめずに検討が半年以上続けられた。会議の参加者が互いに知恵を出し合い、譲歩しあい、それぞれが、その立場でできることを確認しあい、皆が責任を持って参加する、前例のない総合的取組みが平成16年7月に決定されたのである。
「万引をさせないための行動計画」という名を付されたこの取り組み指針は、当時の万引きの状況を反映して、主に、少年による万引きを防ぐという観点から検討されているが、その後、東京都内で少年による万引きが減少していく大きな力となったと思う。これを機に、当機構は発足するが、同時に、東京都、警視庁、小売業団体等の関係者が「東京官民合同会議」を新たに立ち上げ、その推進に力を発揮していく。その、つい先日の会議でも報告されたが、少年による万引きのその後の減少を支えたのは、警察、学校、保護者等様々な関係者の連携であるとの発表がなされたが、当時のこの計画策定に携わったものとして、大きな喜びである。ちなみに、その会議で最近小学生の万引きが増加していることに懸念が表明され、新たな対策の必要性が強調された。この会議がしっかり機能していることも、嬉しく思った。
少し長いが、行動計画のほぼ全文を次に掲げるので是非お目通しいただきたい。万引対策の原点とも言うべきもので、今では当たり前になっていることも、当時は激論のあったことだということが窺われて興味深い。

万引をさせないための行動計画の策定にあたって

昨年中に東京都において万引で検挙された者の約3分の1が少年(20歳未満の少 年・少女)であり、そのうち約7割が中高生である。店舗限りで処理されている事案も考えると実際の万引の数は何倍にもなると予想されるし、販売店側の万引の被害調査によれば、販売店が発見した万引犯のうち半分が中高生であるという結果もある。
万引は軽微な犯罪として捉えられがちであるが、少年が万引を繰り返すうちに規範意識を失い、重大な犯罪を犯すようになっていく場合がある。非行の入口である万引に対し、大人社会が適切な対応をし、少年の非行の深化を防ぎ、少年の健全育成を図っていくことが必要である。そこで昨年12月、私たちは、少年の万引防止に社会全体で取り組み、具体的方策を検討していくために万引防止協議会を組織した。

第1回協議会を昨年12月25日に、第2回を本年4月27日に、第3回を7月6日に 開催した。また、3月6日には万引防止シンポジウムを実施し、中学・高校生によるパ ネルディスカッションと少年の万引に関連のある4者(保護者、販売店、学校、警察) 等によるパネルディスカッションを行い、大人社会が連携していくことの必要性を再確認した。
これまでの万引防止協議会では、
· 少年による万引の場合、被害販売店が保護者に通報するにとどまり事実関係 が表面化しないことがある。
· 販売店が学校に通報するか、警察に通報するかについては各店により対応 が異なる。
· 保護者、販売店、学校、警察の間で情報が共有化されていないし、どのような 対応をとるべきか意思統一されていない。
· 販売店の展示方法に問題がある場合もある。
· 万引防止のための教育が不十分である。
· 実態は不明であるが、換金目的の万引が相当数あり、古物商は万引物品を 買い取らないための取組を徹底する必要がある。
などの意見が出された。議論の結果、保護者、販売店、学校、警察等の役割や相互 の関係を明確にし、一体的な取組を進めるため、万引をさせないための行動計画を策定し、本年の夏から統一的な行動をとっていくことを決定した。
この行動計画は、少年に万引をさせないようにし、また、万引をした少年に万引を繰り返させないようにして、大人社会が少年の健全な育成のための統一した取組を行おうとするものである。万引防止協議会に参画している団体・機関では、8月1日から この行動計画を実行に移すこととする。各団体・機関は、それまでに行動計画の趣旨 の周知を図った上で、取組を徹底するとともに、少年の健全育成に資する適切な運 用を行うことに留意する。
万引防止協議会としては、この行動計画に基づく取組について、本年秋以降、随時 検証を図っていくこととしたい。新たな取組に関する事例の収集・検討、警察と学校との連携状況、連絡を受けた学校での指導の状況、定期的な被害実態調査や少年の 意識調査、各種キャンペーンの効果調査等を通じ、行動計画の運用状況、少年の健 全育成に対する効果等を検証していく。
もとより、少年による万引をなくしていくためには万引防止協議会関係者だけの取 組では十分ではなく、この取組に呼応した社会全体の万引防止のための動きが出てくることを期待するものである。

平成 16 年 7 月
万引防止協議会委員一同

万引をさせないための行動計画

1 万引しにくい店舗づくり
◎販売店は、
· 「いらっしゃいませ」「何かお探しですか」など客への挨拶・声かけを 励行し、客への関心を積極的に示すことにより、万引の未然防止 に努める。
· 「買い物を楽しんでいただくため、声かけサービスをしています」 「安心して買い物していただくため警備員が巡回しています」など の店内放送や、「当店は警察との連携体制をとっています」などの 表示物や防犯ポスターの掲示等により、万引の実行を断念させる ための広報をするとともに、万引防止対策をしている店であること をアピールする。
· 販売・商品陳列方法や整理・整頓・清掃の徹底により、商品や店舗 を大切に管理し、管理が徹底されている店であることをアピールする。
· レジ、精算コーナー等を、出入口付近で、かつ、店舗内が見通せる 位置に配置するようにする。見通しを確保するために、作業台など を店内の適切な位置に設置し、人員を配置するなどの工夫をする。
· 万引被害の実態把握のため、常にロスの把握に努めるほか、在庫 管理の方法を工夫する(帳簿在庫と実在庫の差違、被害の多い固 有商品の確定などを目的に、狙われやすい売れ筋商品などに対して短期間に棚卸しを実施するなど)。
· 万引が発生した時の、店員・アルバイトの対処要領について教育・ 訓練を行う。
· 防犯体制を補完・強化するための防犯機器の導入に努める。導入 した店舗は、「防犯機器設置店」等の標示をする。
◎商店街は、
· 店舗相互の声かけ、商店街放送、防犯ポスターの掲示などにより、万引防止対策をしている商店街であることをアピールする。 · 万引が発生した場合は、その手口など情報が商店街全体に伝達さ れ、その商店街では、同じような万引を発生させないための協力体 制(定期的会合、連絡網等)を構築する。
◎防犯機器業界は、
防犯機器
· 安価で効果的な万引防止機器の研究・開発に努める。
・経済産業 省等関係省庁との連携により、機器の普及に努める。
◎警備業は、
· 万引Gメン・保安員等が把握している万引の実態について調査し、 販売店等に情報提供して、販売店側の万引防止に配慮した店舗 づくり・体制をサポートする。
◎行政は、
· 防犯設備に関する助成制度についてよく周知させ、販売店側が取り入れやすい環境づくりに努める。

2 万引一掃の教育・キャンペーンの強化
· 学校(小・中・高等学校)は、万引について非行防止教育で「万引 は犯罪であり、人として絶対にやってはいけない行為である」という ことを徹底して教える。
· 学校は、保護者に対しても「『たかが万引』という認識が深刻な非 行に発展する」「『買い取れば済む』という親の態度が子どもの規範 意識を低下させる」など問題意識を持たせる指導をする。
· 学校は、PTA の役員会、保護者会、学校評議員会等で、万引の実 態や防止策について相互に意見交換をする。
· 教員は PTA とともに、定期的に近隣の販売店・商店街を回り生徒 の様子などを聞き、地域とのコミュニケーションの構築に努める。
· 教育庁・私学協会は、定期的に万引に関する意識調査を実施し て、万引防止のための諸対策の効果を検証する。
· 販売店、業界団体は、万引被害の実態について定期的に調査し、 公表・関係機関に周知するとともに、万引防止のための諸対策の 効果を検証する。
· 学校と販売店は、被害者である販売店と生徒との間での、万引の 実態、被害者のダメージ、万引防止のための方策等について、討論する機会(「セーフティ教室」の利用も可能)をもつ。
· キャンペーンは、商店街単位又は地域ぐるみ、業界単位、異業種 横断等で実施し、できるだけ多数の者に広報啓発できるようにする。
· キャンペーンは、例えば、商店街一体となり、精算前に品物をカバンに入れるなど万引と疑わしい不審行動の段階での声かけを徹底 するなど、徹底してアピールする方法で実施する。

3 万引発見の徹底
· 販売店は、集団で売り場内を必要以上に徘徊している者、大型バッグ等を所持し必要以上に周囲を気にしながら徘徊している者など には、サービス行為の一環として「何かお探しですか」などの声かけを実施する。
· 販売店は、「精算前に品物をカバン等に入れた場合は声をかけさせていただきます」など、万引と疑わしい不審な行動をとった段階 で声をかけるなどの販売店と客とのルールを具体的に定め、店舗内に掲示する。
・不審な行動を発見した時は、声かけを徹底する。
・ 販売店は、万引の実態調査を行うとともに、警察と連携を図り、万 引の手口に関する情報を共有化する。
· 万引Gメン・保安員等は、万引を発見したときの具体的対応要領などを販売店側に指導する(マニュアル等を作成する)。

4 万引を繰り返させない仕組みづくり
◎少年の万引を発見した場合は、
· 販売店は、可能な限り少年の氏名、年齢、連絡先、学校等を確認 する。
· 販売店は、全て警察、保護者に連絡する。
· 販売店は、警察に少年の身柄を確実に引き渡す。
· 販売店は、万引した少年の通学する学校が判明した場合は、学校 に対し、少年の性別・学年と、連絡した警察の名称を連絡する。
· 警察と学校は、「生徒の健全育成に関する警察と学校との相互連 絡制度」の趣旨を踏まえて連携を図る。
· 販売店・学校・警察は、少年のプライバシー保護に充分留意する。 また、相互の連絡のみによって少年に不利益にならないよう適正 な対応を行う。
◎PTA・学校・警察は、万引した少年の保護者に対し、次のことを働きかけ る。
· 万引した子どもを同伴し、被害店舗へ必ず謝罪に行くこと。
· 万引した子どもと、なぜ、どのような状況で万引を行ったか話し合いをすること。
◎販売店は、
· 保護者に対して、万引した子どもとの話し合いのための情報(万引 した品物、金額、単独か複数か、少年の説明内容等)を提供する。
· 家庭裁判所が実施している、万引等をした少年の立ち直りに向けた被害者の痛みを理解させる取組に、協力する。
◎警察と学校は、
· 「生徒の健全育成に関する警察と学校との相互連絡制度」をまだ 締結していない場合は、早期に締結するなど、連絡のしくみをつく る。
◎学校は、
· 万引が発生したときの連絡窓口、連絡方法を近隣の販売店等に明 確にしておく。
· 万引をした生徒に対して、例えば万引防止シンポジウムでの発言 等を参考にして、万引を繰り返させないという内面に訴える指導を 行うなど、当該万引のみにては退学に至らない教育的措置と再犯 防止措置をとる。また、カウンセリング指導、生活改善を図らせる 指導等の体制の充実に努める。
· 地域、商店街等と連携し、生徒をボランティアや地域の清掃に参加 させるなど、社会貢献できる機会を設け、社会参加意識と地域構 成員としての自覚を喚起させる。
◎警察は、
· 「セーフティ教室」などの機会をとらえ、少年に被害者の痛みを理解 させる指導を行う。
· 学校に通学していない少年については、保護者と一層の連携を図り、社会参加活動を行わせるなどの対応をとる。
· 迅速な事件処理を図る。
◎万引防止協議会のメンバーは、
· 協議会の意図を踏まえ、あらゆる機会をとらえ関係者に対し、特に 成人の万引や組織的万引に対する厳しい対応をとることと窃盗罪 へ罰金刑を新設することについて要請する。

5 万引物品の売買防止
◎古物商は、
· 「東京都青少年健全育成条例に基づき、保護者の同意を確認させていただきます」「青少年の健全育成、非行防止の観点から、万引品と疑わしい場合は、警察に連絡いたします」などの店内放送や 防犯ポスターの掲示等により、万引物品を買い取らない店であることをアピールする。
· 東京都青少年健全育成条例を遵守し、18歳未満の者からの買取 は行わず、例外的に買い取る時には、保護者の同行を求め、又は 電話等による同意確認を徹底する。また、「18歳未満の可能性が あるときには、学生証等により身分確認を確実に行う」「同時に、同 一物品を2点以上は買い取らない」などの自主ルールを徹底する。
· 買取の台帳記載義務を免除されているものについても、買取の記 録(売却した少年の氏名、物品等)を保管・管理するよう努めるもの とする。
· 買取時に、不正品の疑いがあると認めるときは、古物営業法に基 づき、直ちに警察へ通報する。物品を持ち込んだ者が少年であった場合は、保護者へも連絡する。
◎万引防止協議会のメンバーは、
· 古物商各団体に未加入の古物商に対して、加入を呼びかけるとともに、古物商各団体に対して、古物商各団体が定めた「自主ルー ル」の履行の徹底について要請する。
◎警察と東京都は、
· 古物営業法、東京都青少年健全育成条例等の法令の遵守について防犯協力会等の古物商各団体とも連携しながら、古物商に対し、指導を強化するとともに、悪質業者に対しては、徹底した取締りを行う。

「万引防止協議会」参加団体名簿
(順不同)
○東京都書店商業組合
○リサイクルブックストア協議会
○東京都古書籍商業協同組合
○日本レコード商業組合
○日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合
○日本テレビゲーム商業組合
○日本フランチャイズチェーン協会
○日本チェーンドラッグストア協会
○東京都商店街連合会
○出版文化産業振興財団
○東京都警備業協会
○日本出版インフラセンター
○日本 EAS 機器協議会
○東京私立中学高等学校協会
○東京都公立中学校 PTA 協議会
○東京少年補導員連絡協議会
○東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会
○警視庁生活安全部(少年育成課)
○東京都知事本局企画調整課(治安対策担当)
○東京都教育庁指導部
以上20団体

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