やけくそ万防日記5 万引きをめぐる不可思議な言い分?その2―お客様は神様?-

お客様とのトラブルをめぐって、こんな店長と店員のやり取りは今もどこかで演じられているでしょう。

店長「君、お客さんともめちゃだめじゃないか。つまらないことでトラブルにするより、うまくやれよ。お客さんは神様なんだから。」
店員「お客さんと言っても万引きしようとしたんですよ、注意ぐらいしても。」

(三波春夫さんの言葉とは意味が違うよ)
「お客様は神様です。」、これは、東京オリンピックの歌を歌った当時の国民的歌手三波春夫さんが発した言葉です。自分の歌を聞きにコンサート会場に足を運んでくれた皆さんに向けて、あなた方のおかげで自分は気持ちを込めて歌が歌えるのだという感謝の気持ちを込めたものです。
いつしか、この言葉が、サービス業の方々にとって絶対的なドグマとなり、その手足を縛り付け、お客を神様のように接することが当たり前になりました。同時に、客ともめ事を起こさないことが金科玉条になり、それを理由に、見て見ぬ振りや平謝りをして客の非常識を許してしまいがちになりました。
製造業の方々は、顧客のニーズに応えつつも顧客にこびない製品開発を目指すそうですが、いざ製品についてのクレーム対応には苦労しており、インターネットで悪口を言われないように神経質な対応を余儀なくされています。似たような側面がありますね。
顧客の意見には十分耳を傾けなければならないというのはそのとおりですが、行き過ぎるととんでもないクレーマーを作り出すことになりかねません。
(俺も神様だぞ)
そんなに大事にされた客はなんだか自分が偉いような気持ちになるのも、無理からぬことです。終電車の酒に酔った客の中には、車掌に「お前、客に向かってその口の聞き方は何だ、土下座して謝れ。」と怒鳴る方が後を絶ちません。スーパーの店員も似たようなことに遭遇します。万引きを咎められた方の中には、「盗られるような置き方をしているのが悪いんだ、客に向かって万引きごときでえらそうにするな。恥をかかせて何様だ。」と三角目でにらみつけます。子どもの万引きを通報された親の中には、「万引きごときで忙しい俺を呼び出すな、払えばいいんだろう、こんな店には二度と来てやらないからな。この店の偉いのに言っておいてやる。」とすごむ方もおられるのです。
店員はこんな暴言にひたすら耐え抜きます。そして思うのです。「物を売り、代金をもらう方と、好きな物を買い、代金を支払う方は、お互い様じゃないか。何でこっちがこんなに遠慮しなきゃならないんだ。万引犯が神様なんて。」
でも、経営者の中には違った考えを持つ方もおられます。「それぐらい万引きされても仕方がないよ、利益が出ればよいのだから。客とトラブルになる方がよっぽどまずいよ、店の評判に影響する。お客様は神様なんだから。」。こんな話を聞けば、万引犯はシメシメでしょう。「俺も神様だぞ、ぞんざいに扱うな!」
そんな風潮を見て、三波春夫さんは、わざわざ弁明され、「私の使った言葉が、私の意図と違う使われ方をされているのは心外だ。」という趣旨のご発言をされたそうです。

小売事業者が万引防止を大声で叫ばない風潮があるのは、「お客様は神様」という呪縛にとらわれていることが一因だと言ってよいでしょう。
先に述べた、都庁での会議で、書店の方が、「本を手にとり、良い本を探すお客様の邪魔をしてはいけない、そっとしておくこと、また、レジは店の隅っこに置き、お客様を監視しているようなことにならないようにするのが本屋の顧客対応だ。」と言われるのでびっくりしたことを思い出します。「それでは万引きはしたい放題ではありませんか、自分の物がとられるかもしれないのに良くそんな悠長なことを言っていられますね。」と申し上げたことを思い出します。
また、当時は、防犯カメラを店舗に設置することすらためらう店舗が多数ありました。これもお客様を疑っていると言われたくない、他の店はどうしているかという気持ちだったのでしょう。今では、防犯カメラを設置してもそれを隠すことなく、むしろしっかり「防犯カメラ作動中」と明示している店舗が大半ですが、時代は大きく動いたといって良いでしょう。しかし、時に、防犯カメラを設置することを潔しとしない店舗も耳に入ります。時代の変化に目覚めておられないのでしょう。
このように私が言っても、小売事業者の方は、万引防止対策に従事する方も含め、「お客様は神様」が万引防止を妨げているドグマだとは、決しておっしゃいません。どうも経営側の顔色を伺っているように感じます。中には、私が小売業の大変さをわかっていないからそんなことが言えるのだと匂わせる方もおられます。
私は公務員退職後、大手電機メーカーなどの民間会社で10年間仕事をし、その後も小さなレストランの経営に関わっています。ですから、顧客一番というのはそれなりに理解しているつもりです。レストランの経営は最も身近で、お客さんが来てくれなければ1ヶ月も経たないうちに閉店に追い込まれます。ですから、時には理屈の通らないお客様がいても、笑顔で対応し、少なくとも他のお客様にご迷惑にならないよう、店舗スタッフにお願いしています。
万引きで言えば、今の万引きは、出来心とか、少年の至らなさとか、病気(今は、これを言い過ぎているのではと感じていますが、おって議論してみたいと思います。)が理由というより、常習的に、また、換金目的のものが主流といってよいでしょう。彼らを含めて、「神様」はいき過ぎでしょう。
この考え方がもたらす弊害は、一つは、万引を含めたロスの実態把握に躊躇が生じること、二つは万引きの実態の公表をためらうこと、三つは、有効な万引対策を講じる妨げになること、最後に、店舗スタッフのストレスを増大させることだと思います。
「お客様は大切に、万引きのない明るい店舗でお買い物を!」というのはどの小売業にとっても基本的なスローガンであるべきでしょう。
それでも私は小売業を知らないのでしょうか?

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