やけくそ万防日記 トピック2 ガードマンの嘆き

今回は、万引Gメンが何を感じて仕事をしているか皆さんにご紹介したいと思います。現場でお仕事をしているガードマンからエッセイを寄せていただきました。全国警備業協会の方にお願いし、この1月15日に届いたものです。
その中で、まず、警察に対して感じたことについて紹介しましょう。

「警察官の方々は現場で働く保安員の数少ない味方です。逆切れし暴れる万引き犯に店舗事務所で対応している時、こちらの問いかけに何も言わずに無視を決め込む万引き犯と無言で向き合っている時、警察官の方々が臨場されるとまさに地獄でホトケの心境となります。警察官の方々には感謝の気持ちで一杯です。

と言いながら少し何とかしてもらえたら有り難い、と思う事項があるので今回はこれを記します。

昨年の夏、捕捉後の保安員が11時間の調書作成協力を依頼された事案がありました。日勤の8時間終了後に11時間の残業はちょっとキツイ状態です。結局、警察署を出たのは終電の終了した時刻であったために駅前まで歩き漫画喫茶で仮眠したという報告を次の日の早朝に受けました。担当した警察官にパトカーで居住地の最寄り駅まで送ってもらえないか依頼したところ、人手が無いからとあっさり断られたそうです。

その時、保安員から受けた報告の中に「対応した警察官から警備会社にホテルを取って貰ったらどうだ?とか、会社は家までのタクシー代を当然出すべきだろう?」と言われたとの報告がありました。

保安警備会社と店舗側の契約は万引き犯を捕捉して店舗に引き渡すまでです。ただし保安員として捕捉した事案であって警察からの要請があれば調書協力等も拒みません(契約先の許可が降りればですが)。
それにしても、と思うのです。11時間は残業時間です。すべて契約先の支払いとなります。契約先は万引きされた(還付された被害品のすべてが販売できる商品として戻る訳ではありません)挙げ句に多額の残業代金も支払うことになります。

私が警察官の方々に望むのは「民間企業はコストが全て」と言うことを理解していただきたいということです。
現在でも警備業の単価は社員である警備員の福利厚生を十分に満足させる水準にあるとは言えません。保安員を一日勤務させて給料+交通費+諸経費を抜いたら利益が数百円しか残らないのは決して珍しい事例ではありません。
ホテル代やタクシー代をどうしたら工面できるのか、私にはわかりません。

予算が無くても時に必要なことは実施しなければなりません。しかしこれを続けて行けば会社の存続は不可能です。
昨年の夏は長時間残業が特別に多く8時間を超える残業が月間4件ほどありました。最近は少し落ち着いてきていますが6時間以上の残業は当たり前の様に毎月複数回以上発生しています。

過去には「こんな残業代は認めない」と言ってきた契約先もありました。当然、その後の勤務は継続できませんので私たちにとって契約先を1件失うことになりました(現在は下請法等の整備で、このようなことを言われることは無くなりました)。

いまでも契約先に請求書を送付した週は胃が痛い日が続きます。私はスクラルファート配合胃薬を愛飲しながら、警察官の方々のコスト意識が少しでも向上することを願ってやみません。」

いかがだったでしょうか。切ない話ですが、真摯に状況に対処されている様子に感銘を受けました。

次に、万引犯についてどのように感じておられるかについても興味深いお話があります。

「保安警備会社として万引き犯に怒りを感じることは余りありません。とお答えすると意外に思われる方もいらっしゃいます。なかには「保安員にとって万引き犯は飯のタネで、持ちつ持たれつの関係だから腹も立たないのだろ」とおっしゃる方もいて、面白い言い方もあるものだなと感心させられたりもします。

万引き犯は「犯罪者」なのだから常識は通じない。常識の通じない相手がすることにひとつひとつ反応していては疲れてしまうので訓練された保安員は万引犯罪にたいして「余り」感情がオモテにでない様になってしまう、というのが実情です。
もちろん万引き犯に何も感じない訳では無く「倦怠感」とか「疲労感」はいつも感じていますが。

例えば最近、次のような事案がありました。
ホームセンターでの出来事です。ある保安員が東南アジア系外国人の女性(50代くらい)を捕捉し警送処理。夫と思われる60代男性が身柄を引き取りに来た事案がありました。彼女が捕まってから警察に連れて行かれるまで保安員や店舗従業員に悪態や罵詈雑言を決して流暢とは言えない日本語でまくし立てて、全く反省する様子は無かったとの事です。

反省せず暴れまわる、このような万引き犯は珍しい例ではありません。このため警送後は保安員も店舗側も特に気に留めることなく通常勤務に戻りました。
翌日、その店舗にインターネット通販大手から数十万円の電化製品が着払いで届きました。当然、店舗は受け取りを拒否。
同時に店舗の事務所の電話が一日中鳴り続けました。迷惑電話です。無言電話と脅迫電話の2種類がありました。どちらも小売販売業では、ある意味慣れっこではあります、しかし対応するのは無駄手間です。
さらに脅迫電話は女性のたどたどしい日本語で「オマエラタダジャスマナイゾ、ワカッテルノカ」を繰り返すなど万引きに加えて脅迫でも被害届けを出すに十分な内容でした。

全国万引犯罪防止機構の竹花理事長がお書きになられている「やけくそ万防日記1」に「万引きする人にも貧困などいろいろ事情があるのだろう、それもわかってやらなければ。病気の人も少なくないし、認知症になりかけの老人もいるだろう。それを皆普通の犯罪者扱いするのは問題では」という万引き犯罪への市井の意見が戸惑いとともに紹介されています。そして、このような意見は私たち保安警備会社にも寄せられています。まるで万引き犯を捕まえることが不人情だと言わんばかりに。

私自身はこのような意見を必ずしも否定しません。すべてを問答無用に断罪するのでは無く万引き犯罪の背後に目を向ける。このような視線も世の中には存在するのだな、と気付かされたからです。ただ、このような意見に触れるたびに、世の中には万引犯罪に対して未だまだナイーブな人が多いのだなと考えて切ない気持ちにもなってしまいます。
万引き犯罪の中には、得も言われぬ事情で犯行に走る場合が有ることを否定しません。しかし事例に上げたような逆恨みとしか言えない状態も決して珍しいものではありません。そして本来、被害者である小売販売業側が苦しまなくてはならない理由はありません。

冒頭の意見のように、保安警備会社にとって万引き犯罪は飯のタネです。しかし、万引き犯罪を無くすために毎日戦っているのも事実です。

昨今の人工知能の進歩は目覚ましいものがあり、私たちも一部開発に協力させていただいているプロジェクトもあります。今後、これらのシステムが完熟することにより万引き犯罪を撲滅することが可能になるかもしれません。進化したテクノロジーの前に保安警備業務という職種自体がなくなってしまうかもしれません。

私たち保安員の未来がどちらになるのか分かりませんが、それまでは、この矛盾を抱えた保安警備業務で頑張っていこうと思っています。」

この方の穏やかで誠実な人柄が良く現れていますね。いろいろな事例があり、感じることも様々のようです。これからもこのような事例をぜひご紹介したいと思います。
最後に、全国警備業協会が集めてくれた万引問題での万引Gメンのご意見を紹介しておきます。

(万引きGメンの怒り、悩み、苦労)

1.警察に対して

① 調書作成に協力しているが、深夜に及ぶことがある。また、4時間~5時間もかかることがあり、時間の目途も告げられず困っている。(60代 男性)
② 調書作成に協力することが、当然と思われていて困る。(60代 女性)
③ 調書協力で日にちを指定され警察署に行く事があるが、こちらにも都合があるので、一方的に日にちを決められても困る。(60代女性)
④ 捕捉後の警察対応で11時間の残業となった。勤務終了後に11時間の残業は身体に負担であり、次の日の仕事にも差し支えるため勘弁してほしい。(20代 男性)
⑤ 捕捉後の警察対応が22時から深夜4時までかかった。深夜4時では電車もなく、夫に1時間かけて車で迎えに来てもらった。このような時は、警察が自宅まで送ってくれても良いのではないか。(60代 女性)
⑥ 警察から「終電終了後に保安警備員を自宅に送れないこともあるので、警備会社でホテル代やタクシー代を出してもらえないのか」と依頼されることがあるが、契約料金から保安警備員の給与、交通費、各種保険、管理費等の必要経費を引くと利益がなくなるので不可能である。(50代 男性)
⑦ 臨場した警察官が万引き犯人を前にして「保安警備員さんの名前は?」と聞いてくる。万引き犯人に名前を知られたくないので犯人の前で聞かないでほしい。(50代 女性)
⑧ 警察署での調書作成時に不慣れな新人警察官が担当されると時間がかかり困る。(40代 男性)
⑨ 店舗責任者が警察署で調書作成に協力していると時間がかかることから説諭で済ませようとしたら、臨場した警察官とトラブルになった。調書作成に時間がかかり過ぎていることを何とかしてほしい。(60代 男性)

2.ユーザーに対して

① 110番通報を保安警備員に任せるところがあり困っている。110番通報はユーザーからしてほしい。(50代 女性)
② ユーザーから、万引き犯人の取り調べをお願いされることがあるが、保安警備員では対応でいないことを理解してほしい。(50代 女性)
③ あの人が怪しいので警戒してほしいといわれるが、現認していない状況で捕捉することは誤認につながるので、出来ないことを理解してほしい。(50代、60代、70代 女性)
④ 捕捉率の低い保安警備員は外してほしいといわれるが、捕捉率だけで評価してほしくない。(60代 女性)
⑤ 商品1点を万引きした犯人を捕捉した際に、「忙しいのに」、「たったこれだけのことで」と嫌味をいうのはやめてほしい。(60代 女性)
⑥ もめ事は警備会社の方で一切責任を取ってほしいといわれても困る。(60代 女性)
⑦ 警備料金を支払っているのだから、もっとしっかりとやってほしいといわれて困る。(60代 女性)
⑧ 声掛けから捕捉に至るまでの協力体制が取れていないユーザーがあり困る。(60代 女性)
⑨ 保安警備員の所在を常に把握したいとのことで休憩時間もどこにいるかを報告するよういわれ、また、保安警備員がちゃんと働いているかを監視されて困っている。(50代 男性)
⑩ 店長が被害届けを出すと時間がかかるので出したくないというので困っている。(20代 女性)
⑪ 内引きをしたパートやアルバイトがいても新たなスタッフの確保が難しいとの理由で辞めさせたがらない。(60代 女性)
⑫ スーパーマーケットの鮮魚コーナーで魚を購入したお客様がタタキ加工を依頼して鮮魚コーナーを離れ、買い物を継続した。魚の料金も含め全ての商品の清算を終えたお客様は鮮魚売り場に戻りタタキ加工の終わった魚を買い物カゴに入れ退店した。保安警備員は、お客様がタタキ加工の終わった魚を手にとったところから監視を始め店外で声掛けをして誤認となった。このような清算方法は誤認の原因となるのでやめてもらいたい。(20代 男性)
⑬ 複数の外国人による大量窃盗が多くなっており、保安警備員1名では対応しきれないことを理解してほしい。(50代 女性)
⑭ 万引き犯人を捕捉した際に、管理職が捕捉処理または警察署に行くことになるとお店が回っていかなくなるので、「今日は捕捉しなくていいから」といわれ私の存在理由は…?と思うことが最近増えてきた。(40代 女性)
⑮ 大量の商品が陳列してある店舗が増えており、死角が多い構造になっているため万引き行為を現認しにくい。レイアウトや商品の陳列方法も考えてほしい。(40代 男性)
⑯ 逮捕後の警察対応に要した時間分の費用をユーザーに請求したところ、「万引き被害にあったうえに追加料金を負担するのは納得いかない。」と怒られた。自分に言われても困る。(20代 男性)
⑰ 数十点の商品の内、少額又は小物の商品を万引きし、他の商品は精算するということが最近多くある。誤認逮捕を防止する為に「少額又は小物の1点の捕捉は禁止」という方針が示されていることから捕捉に行けない例が増えてきており、捕捉の件数が減ってきている状況を理解してほしい。(40代 女性)
⑱ 万引き犯人の手口が巧妙化し、従来の方法では対処しきれない事が増えてきていることを理解してほしい。(70代 女性)

3.犯人に対して
① 捕捉したときの状況を教えてほしいと家族と称する者が電話をしてきて、こちらの揚げ足を取ろうとするのはやめてほしい。(60代 女性)
② 暴行されたり、覚えておけといわれたりすると恐怖を感じるのでやめてほしい。(50代 女性)
③ 帰宅後、親や弁護士などを通じて、権利を侵害されたなどというのはやめてほしい。(60代 女性)
④ 理由をいわない、反省しない、謝らない万引き犯人がいる。ちゃんと反省してほしい。(70代 女性)
⑤ 試食をたんまり取り、さらに隙をみて他の商品を窃取する万引き犯人がいる。二度と来てほしくない。(70代 女性)
⑥ 自分の親ぐらいの高齢者の万引き犯人が増えており、捕捉すると何ともいえない悲しい気持ちになる。(60代 女性)

これらのご意見や感想を聞くと、ユーザーや警察を含め、どこかで、万引Gメンの役割について、議論しなければならないと感じます。私の聞くところ、何人万引犯を捕まえたかを成果として警備会社に求めているところも少なくないと聞いていますが、それには上記のエッセイにもあるように,警察での処理に時間をとられすぎるなど、合理的でない面もあるように思います。ユーザーの中には、この店は万引きしたら捕まるからここではよそうというようにしてもらいたいという希望があるところもあると聞きますが、既に申し上げてきたように、万引きは刑事司法ではユーザーの方々が期待するほどの一罰百戒の効果を持たないのです。その点を考えれば、ガードマンを雇う目的は、やはり、万引を減らすことでしょうから、検挙を含めて万引防止対策を有効に実施するために最も良い方法を決めていくこと、それに伴う万引減少を評価基準にすることが大事だと思います。そのためには、ロス管理という手法に店舗自体が習熟すること、ロスを減らすという観点で見ると、万引問題がどのようなウエイトを占めるか、万引きの多発時間、万引されやすい商品は何かなどを十分知りつつ、ロス管理を徹底する中で万引によるロスがどれだけ減ったかを万引Gメンの評価基準にするのは一つのやり方のように思います。Gメンをどう活用するかを決めるのは、お金を払う店舗側ですので、万引問題で経験と見識を持つ警備会社からよく話を聞き、方針を決める必要があります。その際に、店舗側は、万引きの実態をよく説明することが必要ですし、他方警備会社は、どうすればこういうことがこの程度できるかなど、よく情報を提供することが必要です。店舗の側と警備会社が十分意思疎通し、連携して対処することが肝心で、店舗側で万引きはあなたたちに任せたのだからと無関心であってはせっかくお金を払っているのに万引対策の成果は上がりません。
今のところ、私自身万引Gメンの活動を十分に知っているわけではありません。以上はとりあえずの感想とさせてください。

連載に関するご感想、ご相談はこちらまで(万防機構サイト)
https://ssl.alpha-prm.jp/jeas.gr.jp/contact2/