やけくそ万防日記6                  万引きをめぐる不思議な言い分3-万引きは口にしたくないー

「お客様は神様?」というドグマが、万引実態の把握や公表を妨げていると第5回に書きましたが、万引被害に相当苦しんでいる小売業者さえ、万引きでこれだけ被害があり、我々は経営上も大きな困難に直面していると公表することに消極的ですが、私が不思議に思うのは、その頑なさです。なぜですかと尋ねると、「そんなことは当たり前だ、我々は商売をうまくやらなければならない、それは決してやさしいことではない、余計なことをして顧客を失うことになったらどうしてくれる。放っておいてくれ。」と部外者の私たちをののしるのではと思うぐらいです。
この連載の第1回目にも書きましたが、被害を明らかにしないことが万引問題を大きな課題として社会に認めていただけない原因です。社会から大きな支援を受け、また、万引犯に肩身の狭い思いをさせるためには被害者側の実情をオープンにするのは必要不可欠です。
私が知りえた被害の状況、例えば「ある事業者は年間に数十億円も被害に遭っている」とオフレコでお話しすると、どなたも驚かれ、どうしてそんなにとおっしゃいます。その表情には放っておけないことだという表情がありありです。

(万引きがない店があるとは誰も思っていないし、万引被害がある店が良くない店だとは思っていない)
多くの小売業者の方々が、個々の店舗ではもちろん会社全体で万引きがどれだけあるか公表しません。「こんなに万引きされていることを公表すれば、店や会社の評判を落とすのではないか。わざわざそんなことを公表することはない。」と思っておられるのでしょうか。
「そんなことはない、どれだけ万引きされたかわからないから公表できないだけだ、そんな話は言いがかりだ、小売業の厳しい競争を知らない者の言うことだ。」と反論する経営者もおられるでしょう。そんな方には、「あなたの会社は万引きを含むロス対策をきちんとやっていませんね。株主に対する責任を果たしていませんね。」と申し上げたいのです。
それでも万引犯がうようよしていると思われると店の評判を悪くすると思われるのはわからないではありません。でも、万引きがない小売店があるとはおそらく誰も思っていないでしょう。
こんなに万引きされていることを知れば経営トップに叱られる、と現場がおそれているという雰囲気も感じます。どうも知らず知らずのうちに皆で臭い物にふたをしている小売業者が多いように感じます。

(万引きを減らしたいなら、どれだけ万引きされているか公表したほうが良い!)
反万引き宣言店舗になりませんか!
「先月、万引き、これだけやられました。品物はこれこれです。私たちの損害はかくかくです。上司から叱責を受けました。皆さん是非犯罪のない店舗空間を作ることにご協力ください。私たちは、やむを得ず、防犯カメラを作動させています。こんなことはしたくないのです。お金もかかるし、すべてのお客様を疑っているようですっきりしません。どうか明るく素敵な店舗作りにご協力ください。」
店舗スタッフの皆さんはストレスを抱え、暗い気持ちになると嘆いています。怒りも敗北感ももっています。面倒なもの、ややこしいようなものには手をつけないというこれまでありがちな対応から脱却しませんか!スタッフの皆さんの元気が回復し、万引に対する警戒力がアップするでしょう。
そうです。事情を率直に説明して、反万引宣言店舗になるのです。
万引対策を進める東京官民合同会議では、ずいぶん前から、「万引防止モデル店舗」の取り組みをしています。当機構や専門家が店舗の診断をして、万引対策のハード、ソフト面での対応状況を一定の基準で判断し、良ければ、モデル店舗として認定し、それを店頭に掲げることができるようにしています。これは店舗での万引対策の能力向上に寄与し、万引犯にプレッシャーをかけるものです。この取り組みは万引実態の公表を前提にしていないもので、私からすると少し中途半端の気もしますが、一つのやり方だと思います。

(万引きされないようにしろよと言う声)
反万引宣言店舗になることは、別の非難に対する店舗スタッフの、明確な対応を可能にします。
というのも「もっと盗られないようにしろよ。」という声も店舗スタッフのストレスを高めるもので、厄介なものです。捕まった老人にご家族がいれば、ご家族は平身低頭謝られるが、内心では、「こんな商品の並べ方や警戒の仕方では盗ってくださいといわんばかりで、盗ろうという気にしているようなものだ。エコバッグなんていうが、そんなもの持ち込ませないようにしてもらいたいものだ。防犯カメラももっと良くわかるようにつけてもらいたいし、前にもお願いしたが、私の親が来店したら早く見つけて家に連絡してほしいといったのだから、なぜそうしてくれないのだ。」と思われている方も少なくないはずです。
子どもの場合は、警察に通報する場合でも、親御さんに連絡を取って引き渡すことが多いのですが、たいてい、親御さんは「もう2度とこんなことはさせません。万引きした物は買わせていただきます。」と謝られるが、中には、「俺は忙しいのに、たかだか万引ぐらいで俺を呼び出すとは何事だ。払えばいいんだろう。取られないようにしておけ。」と啖呵を切ってお帰りになる御仁もおられます。
ことほどさように、被害者の対策の弱さを指摘する声は小さくありません。「売ることばかり考えてないで、盗られないように工夫しろよ。」というのです。
被害者サイドからすれば、他人の物を盗る方が悪いので、盗人猛々しいとはよく言ったものだと思うのですが、そんなことでお客とトラブルになりたくはない。そこで、万引されないように十分措置しておくとともに、反万引宣言店舗になっておけば、そんなことを言うお客も現れないでしょう。いかがでしょうか

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