やけくそ万防日記 トピック3「始まりは万引防止年間チャート」

私が理事長になって驚いたのは、万引防止年間チャートの精密さです。これを担当しているのは、当機構事務局次長を長く務め、今は、
当機構の理事でもあり、日本万引防止システム協会の会長代行を務めている稲本義範氏です。全国から引く手あまたの、万引問題の語り部でもある彼にお願いして、このチャートの作成方法等について語っていただきました。
これをお読みになれば、万引防止対策に長年尽力してきた稲本さんが、万引きに関する知識がいかに豊富か、交友関係が半端ではなく広いこと、また、何より万引対策に熱い情熱を傾けていることがお分かりいただけるでしょう。まさに、当機構の誇るべきリーダーです。彼のような人材をもっと増やしたいと心から願っています。

「連載を読んでいただいている賢者はお気づきと思うが、「万引防止やロス対策が進まない背景は組織風土がある」と明言したい。しかしながら、その答えに自ら辿りつくことは干し草の中から針を探すほどに難しい。万引防止の会議に参加する小売業者の中には「万引犯に言いたい。ウチじゃなく、他社の店舗でやってくれよ」「警察が何もしないから万引が減らないんだ」「行政が助成してくれないから防犯機器が買えない」と問題解決を外側に求めることが多い。これはまだマシな方で、「万引対策にコストをかけるのがバカバカしい」「ウチの従業員は意識が低いからね」と責任を放棄している企業も多い。最後は、大きな万引被害が発生しているのに「うちはあまり万引が無い」と本当の事を言わなくなる。だが本当に恐ろしいのはこれからで、ロス対策を放置している企業は、かならずといっていいほど、欠品やリスク対策の遅れのために大きな損失を出すようになる。その商品があれば顧客満足が高まり大きな売上になるのに、それが出来ないため、徐々に問題解決への諦めが早くなっていく。負け癖がつく。万引対策を怠ると早かれ遅かれ、正しい経営の羅針盤を失うことになる。
このような企業に意見を言っても聞く耳を持たない。しかし、問題点を小売業側の責任に求めていては万防機構の存在意義は無い。この壁を乗り越える覚悟を万防機構は持たなければならない。その時が訪れた。聞く耳を持たない相手に、対策や企業連携の必要性を気づかせるきっかけが「万引防止年間チャート」であった。
我々が年間チャートや企業連携を意識したのはいつだったのか? それは平成25年3月に開催された日本万引防止システム協会のセミナー「万引対策がすすむ10のポイント」の中で、イトーヨーカドーの万引対策の年間対策表(過去の月毎の被害品とその対策例)の紹介があった時だった。イトーヨーカドーは、万引対策を徹底することで不明ロスを半分に激減させることに成功していた。
このセミナーに参加していた小売業や警備業や防犯機器メーカーの各社から、「同様な年間の対策表がほしい」との要望があった。万引被害は年間を通じて発生していたが、月によって検挙件数は大きな変動があった。実際に年間で検挙件数が一番多くなる時期はいつか? そして、その原因と対策は? など、万引対策のプロでも知っているようで知らないことがあるからだ。
年間チャート作成に向けて、まずは警察庁に、それまで非公開だった月毎の年代別・検挙件数データをご提供いただくようお願いした。前例が無かったことだったので、難しいと言われたが、ある警察官の熱心な働きかけで何とかそのデータをいただいた。本気で臨めば誰かが助けてくれる。それをきっかけに平成25年12月に「万引防止年間チャート制作」小委員会を発足させた。メンバーには、GMS、ホームセンター、ドラッグストア、スーパーマーケット、ショッピングセンター、警備業、防犯機器の業界、警視庁から委員を派遣していただいた。平成26年1月に第2回委員会で事務局案を精査し、平成26年1月27日の臨時総会で「万引防止年間チャート」という名の道しるべを発表した。なお、年間チャートの裏面には、毎回こんな文章がある。

「万引防止年間チャート制作小委員会報告書」には、今後に向けての提案が付記されていた。その全文を紹介したい。

『企業そして業界の垣根を越えて、このような万引対策の「見える化」「過去から未来への情報共有」が進んだことは大きな成果だと実感しております。この活動を来年以降も継続していくことで、日本各地でさらに実行力のある対策がなされていくことを期待します。
現在、万引問題の中で深刻さを増しているは、高齢者万引や大量窃盗団の問題です。高齢者万引の対策については、福島県の年配者による万引防止アドバイザー制度がスタートした事例はあるものの、実際的には、ようやく対策に向けての調査が始まった状況です。
大量窃盗団の対策は、島根県や福井県で被害発生時の緊急連絡網がスタートしました。他の地域に広めるためには、企業間での防犯画像などの情報を共有に関する新たな取り決めが必要になっています。さらにはネット上での盗品転売の防止についても、官民や業界間での協力が必要となっています。今回の取り組みはわずかな前進かもしれませんが、それらの解決に向けての橋頭堡になることを願っております。』

当機構は年間チャート作成から新たな羅針盤を見出し、おのれの意思で漕ぎ出した。なお、年間チャートに作成に協力した委員会メンバーには記念の盾を贈った。感謝の念を込めた盾を贈ったのも初めてのことだった。現在はロス対策年間チャートと名称を変更し、1月22日に2019年度版を発行した。これを指揮してきた普及推進委員は、その後、万引対策強化国際会議の裏方などを務め万防機構の理事になった。いま彼は工業会・日本万引防止システム協会の代表に就任し、防犯機器の安全対策推進に向けて舵取り行っている。人は「ともに」という羅針盤を持つことで、人生の荒波を立ち向かえるのではないかと思う。
実は情報を出さない企業ほど、このチャートを欲しがる。(苦笑) まぁそんな企業にもチャートを渡すことにしている。このチャートの意味(ともに)という考えを持って欲しいからだ。そうしないと万引対策は進まない。ひいては企業風土改善につながらないからだ。念押しになるが、企業・行政・地域が連帯しないと万引対策は進まない。その連帯には各自の「ともに・・・するんだ!」という責任が伴うということを自覚してほしい。
今この時も年間チャートは、大型スーパーマーケットからドラッグストア、さらには道の駅などで、店が万引に苦しまないで航行できるよう海図の役目を果たしている。ヨーソロー!」

 

 

 

 

 

 

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