やけくそ万防日記9 売り上げこそ一番、万引防止はおまけ? ――あるいは万引防止への投資と経費節減の悩ましい選択について

最近、中京地域や近畿地方で主に外国人による集団万引が増加し、多くの店舗が悲鳴を上げています。業種は、スーパーもあればドラッグストア、アパレルと幅広く、化粧品や栄養ドリンク、衣料品など様々な商品が狙われています。そこで、この地域のいくつかの店舗の方々にお集まりいただき、お互いに協力することで被害を防ぐことができないか検討を開始しています。現在、その方向として、被害情報を迅速に交換し、関係の犯人情報のうち、個人情報保護法上の個人情報に当たらないもの、例えば、特徴のある服装や態度をしている犯人であればその文字情報など、を即時に提供し合うシステムができないかと検討しています。
その検討の中で私が感じるのは、まず、犯人にとっては万引して換金できる物を売っている店舗であれば、小売業の名称が何であれ、万引きに出向くということです。犯人の側からすれば当たり前のことなのですが、被害者の側ではそれを想定して業界を超えて対策を講じることなど真剣に考えてきたことはまずなかったと思いますので、目からうろこです。会議の中でも、そちらの店舗で警戒している犯人はうちにも来ているのと同じではないかという話が時として出てきます。さらに、同業者同士の情報交換がドラッグストアなどでは始められており、また、書店間でもお互い様という意見が強まっているといって良いでしょう。が、その他の業界では、他社に対して情報提供をするには社内で乗り越えなければならない壁が高く、時間がかかるという雰囲気も感じます。
また、店舗間での万引対策の考え方やその方法などにかなり違いがあることです。これまでそれぞれの会社で工夫しながら孤独な戦いをしてきた歴史があるのですから、それは仕方がありません。ただ、情報交換をするといっても、店舗によって確保している万引情報にあまり大きな差があっては困ったことになりかねません。というのも他店に情報をもらうばかりで自分のほうからはほとんど情報を出せないというのでは情報交換とは言えないシステムになりかねないのです。
顔認証機能を持つ防犯カメラを導入しているところもあれば、普通の防犯カメラも十分には設置していないところもある、従業員の対応の仕方もかなり差がある、警察への対応にも違いがある、店舗の商品の並べ方にも差がある、万引Gメンの配置にも違いがある、などなど。
その差は、意図して生じたものではないようですが、いくつかの判断の違いを反映しているように感じます。一つは売り上げと万引対策の関係についての考え方の相違、もう一つは、万引対策にどれだけ投資するかという判断の差です。
万引被害をどれぐらい正しく把握しているかがまず前提としてあるのですが、小売業にとって最重要の課題はやはり売上高であり、経営者の意識もそこが一番だというのはよく理解できることです。ですから、犯罪が起こらないようにするのは企業の社会的責任の一つではないかというような、あるいは、確保した犯人は店員などの手数がどれだけかかっても必ず警察に届けるべきだと主張する立場を、私はとりません。万引対策の基本的な目的は、店舗側の万引被害を減らすことだと考えているからです。
ですが、万引きによるロスは利益に直結する経営上の重要な課題であることも事実です。現に、アメリカでは株主総会で株主が追求する重要課題となっているのですから。かの国では、万引きによるロス減少は、売り上げと並んで重要な経営責任です。わが国でも無意識のうちにそのような対応をとっておられる会社もあるようですが、実際には、売り上げに責任を有する部署の声が圧倒的に強く、万引きを含むロス対策部門はマイナーな部署として声が小さいな、遠慮がちだなという印象を受けています。売り上げに影響するかもしれないことは、万引対策といえども厳に表に出したりしてはいけないという風潮もうかがえます。例えば、店舗で万引きをめぐってトラブルがあったり、それが報道されたりすることは売り上げに悪影響があると売り上げ担当の責任部署からクレームがつき、経営層からもお叱りを受けかねないと感じている店舗関係者や万引担当者は少なくないように感じます。
もっとも、そんな中でも、万引を減らしたいと、関係者は心を砕いています。だからこそ、私たちのいろいろな会議にご参加され、いい知恵がないか探しておられるのです。そんな方々にお役に立ちたいと願って、私も会議に出続けているのです。
そんな中で、とりあえず、小売業の方々にお考えいただきたいのは、まず、売り上げに影響を与えないところで、どれだけ万引対策を講じることができるかを考えてみることです。防犯カメラの設置等のハード面での対策をしっかり進めること、被害の多い店舗では、万引専門の担当者やガードマンの配置を実現することが重要です。それから、万引対策にとって有力な従業員によるお客様へお声掛けなどは、万引対策担当部署は遠慮せずに会社で主張すべきでしょう。それに、店舗により被害を受ける商品はある程度わかっているのですから、万引しにくい場所に商品を配置することもある程度主張して良いと思います。店長は売り上げを向上することも責任でしょうが、できる範囲で万引きによるロスを減らす責任もあるはずです。
担当者同士がけんかをしても仕方ありませんが、どちらも店舗にとっては大事なことだということは争いの余地がないのですから、お互いに良く話し合って、必要なことを最大限やること、これを経営層が理解して支援することが必要だと思います。
それはわかったが、万引対策にそんなに金をかけられないという声があります。これももっともなのですが、まず、万引きによるロスを把握できれば、これを防ぐための投資額も自ずとわかってくると思います。繰り返しになりますが、なぜ我々がこんなことまでしなければならないのか、警察の仕事だ、政府は補助金を出してくれという類の話は後回しにして、自分の商品を守るのは我々しかないという立場で素直に考えてほしいと思います。
それをやれば万引きはどれだけ減るのだ、それを説得力のあるように説明しろという部内の要求にこたえにくいという声も聞こえてきます。確かにやってみないとわからないし、他の対策との相乗効果もあるでしょうから、難しいことですが、他の会社での状況は参考になります。千葉県市川市にある商業ビル全体での取り組みは数年で万引きを7から8割減少させたと聞きます。また、ある大手スーパーは数年の取り組みで万引きによるロスを半減させた経験を持っています。そういう例を挙げて、社内で合意を形成してほしいものです。他者の動きにも関心を持ち、よそはよそだと言わずに、万防機構によく顔を出して、有益な情報を得てほしいものです。
また、いくら万引対策でも、お客様から嫌われないかという懸念をお持ちの方も少なくありません。その代表は、防犯カメラでした。かつては、個人のプライバシーを損ねるのではとの世論に遠慮して、その設置をためらわれた会社も多かったと思います。それはそんなに昔の話ではなく、私が東京都で仕事をした平成13年ごろですら、もやもやしたものがありました。その後、安全安心な町づくりの必要性についての理解が広がるにつれ、その懸念は一気に氷解しました。最近耳にしたのですが、やはりこの懸念を残したまま防犯カメラを活用できていない会社も少なくないそうです。一度見直してほしいと思います。
最近では防犯カメラの性能が格段に向上し、また、通信の能力が飛躍的に高まったこともあって、新たな防犯システムが次々に開発されています。顔認証機能を活用した盗難対策もその一つです。もちろん、万引きを100%なくすようなマジックがあるはずがありませんが、使いようによってはかなりの効果が期待できるものもあるように思います。大切なことは、許される範囲で、これまでの思い込みにとらわれず、多様な取り組みを進めることです。
店舗や会社の規模によって差異があるのは当然で、柔軟に投資に見合う成果が得られるような仕掛けを取り入れていくことが大切だと思います。
店員の声掛けを徹底する、万引Gメンを有効活用する、犯人からよく見える防犯カメラを設置するなどの工夫は可能ではと思います。防犯カメラをつけても対策に役立たないではないかという方がおられれば、常習者の検挙にはこれが必要不可欠と警察から言われている、社内外の他店舗との情報交換をするにも提供できる防犯画像もないようでは、こちらも提供を受けられなくなると反論してください。
いずれ、犯人にとって好都合な店舗単位、会社単位の情報活用から、彼らにとって脅威となる情報共有と活用へと早く舵を切らなければなりません。万防機構は、顔認証機能を活用した画期的な方法と、個人情報ではない被害犯人情報を活用するややアナログ的な方法の二つの方法の実現に向けて、検討に拍車がかかっています。それを実現するためには、そのシステムが万引きの被害現場のニーズに沿ったものであり、万引防止に効果があることに、経営層を含めた会社全体の理解が必要であるということです。
この日記の次号では、先に紹介した市川の取組みを担当者ご本人からお話ししていただきます。ご期待ください。

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