やけくそ万防日記10 ~ビル会社が取り組む本気の防犯活動~

前回の予告通り、今回は万引対策の成功事例を紹介します。やればできるということを確信させられた事例です。執筆者はその取組みの中心を担った株式会社市川ビル 取締執行役員CD推進部長の長田泰文さんです。

【ビル会社にとっての防犯活動の目的と意義】
あなたの会社はビル会社ですよね?直接商品を売っていないのにどうして万引き対策を行う必要があるのですか?
弊社が社を挙げて防犯に取り組み始めた頃によく質問されたフレーズです。
2005年の夏でした。弊社所有ビルに入居する核店舗の総合スーパーにおいて「今期は目標利益を達成出来そうだったのに、棚卸し結果が悪く未達になってしまった。このところずっとロスが改善されない!」との情報が入りました。弊社は日頃から『テナントの繁栄あってのビル会社!テナントが儲かるから賃料を頂ける!』との思いを強く持っている為、何とかお店の利益確保の為にもお手伝いしたいと考え、一緒に協働する形で万引き損失半減化プロジェクトを発足しました。
当時は防犯についての知識が全く無いド素人でしたし、何から手を付ければ良いか解らなかったこともあり、手あたり次第出来る事から何でも行動に移しました。全従業員にアンケートを実施し、何が防犯に役に立つか、どうすれば万引きの少ない店になるか、とにかく考えるよりまず動くことを心掛け、走りながら考えているような状況でした。そのように泥臭く活動し続けた成果もあったようで、当初の目標だった半減化はあっという間に達成し、1年後には目標を上方修正し、万引き撲滅プロジェクトへと名前を変えました。その後万引き犯罪をもっと重く捉えていきたいとの考えもあり、窃盗撲滅プロジェクトへと更に止揚させ現在に至っております。
最初は何もわからない素人でも執念を持って対策を追求していると好結果が如実に表れ、『こんなにも防犯対策は効果があるのか!』と驚かされたものです。弊社は『防犯対策は投資をするだけの価値が充分にある!』と判断し、防犯機器の強化等のハード面において積極的に投資を行いました。防犯ゲート(玄関は勿論のこと各階への設置)、防犯カメラ全数デジタル化(現在は本社商業ビルに300台・第三商業ビルに150台)など、改善のスピードを緩めないよう活動を継続していきました。
ただプロジェクトを続ける中、ハードへの投資も勿論必要ですが、それらの機器を如何に上手く運用していくか、ソフトの部分も非常に重要だと感じるようになりました。折角購入した防犯機器の能力を充分に発揮しなければ単に宝の持ち腐れ!計画⇒実行⇒統制⇒そして新たな課題に対し計画へ、という改善サイクルをハード・ソフト両面で回し続けることが極めて重要だと感じております。何よりも活動前のロス高から9割もの削減に成功していることも、この改善サイクルの賜だと信じて活動を続けております。
ビル会社として防犯性の高い環境を創る理由… それはまずお客様に安全にビルをご利用頂ける上、テナントにも喜ばれること、それがビルの付加価値創造に繋がっていると確信しているからです。今となっては防犯活動を止めるという選択肢は考えられません!

【顔認証システム】
大半の課題はその対策が明確なものが多かった為、それに対し迷わず対応してきましたが、この顔認証システムだけは2011年導入時にかなり悩んだものです。当時のシステムはまだ今ほど精度が高くなく、モニタリングの結果もお世辞にも良いとは言えない状況でしたが、『これからはカメラ技術の進歩と応用が防犯を変えていく』と信じ導入に踏み切りました。まあ、当時GMSでは全国で導入事例が2番目という話題性を狙った部分や、あとは警察署から指名手配犯を登録するように依頼を受けたことで、警察との信頼関係強化に繋がること等の副産物への期待の方が大きかったかも知れませんね。(笑)
当初は顔認証システムにそこまで期待していませんでしたが、それでも使えるモノへ進化させるべく改善を続けたことが結果に繋がり始めます。なるべく正面から画像を撮る様にカメラ位置を変更したり、逆光補正を加えたり、カメラ自体も機種変更したり、最後には検索エンジンを変更するまでに至りましたが、改善の都度確実に精度を高めていき、現在は防犯活動に無くてはならない強力なツールの一つに成長していると言いきれます。
ただ、世間ではこのシステムを誤解されている方も中には居る様で、まるで悪い事をしているかのような報道を受けてしまう例もあるようです。弊社は当初からこのシステム導入を公表してきたこともあった為、多くの取材依頼があり驚かされたものです。最初は我々の防犯活動がそこまで注目されているのかと喜び勇んで取材を受けたものですが、まるで我々が個人情報保護を疎かにしているかのような誤解を受ける報道をされてがっかりさせられたことも度々ありました。それでも万引犯罪に苦しむ店側の苦労と個人情報保護の観点の両面から報道して貰えるのであれば、取材を断らないよう対応して来たつもりです。世間の皆様に顔認証システムのことを正しく理解して頂ける一つのきっかけになれるのであれば、我々としても喜ばしい限りです。

【ビルの安全から街の安全へ】
もう12年近く前の話になりますが、防犯のプロジェクトを続けていく中で、万防機構の事務局の方から、『近隣の店舗と防犯情報交換会を開いてみてはどうか?』と勧められ、近隣の防犯ゲートを設置している店舗で協議会を発足しました。当初はライバル店同士で警戒し合い上手くいかないのでは?との懸念もありましたが、幸いにも直接物販を行っていないビル会社である弊社が音頭を取ったことや行政と警察にも参加して頂いたこともあり、有益な情報を得ることも出来ました。その後防犯ゲート設置店舗だけではなく、駅周辺の主要店舗が集まる会に発展し、協働での防犯活動が進化していきました。
協議会メンバーの店を警察の方と一緒に巡回する『万引きゼロの日』を制定したり、駅前でボランティアの方々と共にキャンペーンを行ったりと、このことで自分の店だけではなく街の安全を意識することへのきっかけに繋がったと考えております。
最終的には市内で幅広く活動している街づくり組織『元気!市川会』の活動へと統合し、防犯に関しては会の重要なテーマの一つとして活動を継続しております。街頭防犯カメラの寄贈や、駅近隣に放送設備を設けての防犯啓発放送、LEDビジョンを造り防犯情報を流す等、街のブランド力向上へと繋げるために現在も地域貢献を続けさせて頂いております。

【想いの大切さ】
防犯活動において最も大切だと感じていることは、『絶対に成し遂げる覚悟』だと考えています。防犯活動の大切さを組織のトップが理解してやり切る執念があるかどうかに全てが掛かっていると言っても過言ではないでしょう。確かに活動を続ける中で嫌になることもありました。誤認逮捕やクレーム対応、挙句の果ては仲間だと思っていた従業員の犯罪にも直面しました。それでも活動を続けられたのはプロジェクトリーダーであり元気!市川会会長でもある弊社社長の田平の覚悟と執念がプロジェクトを後押ししてくれているからに他ならないでしょう。
万防機構様においても竹花理事長の信念があるからこそ、苦労が多い中でも様々な幅広い活動に繋げられていると勝手ながら想像させて頂いております。

最後に、防犯活動は多くの関係者とWin~Winの関係を構築していける壮大なテーマだと感じております。プロジェクトに関わる社員・店の関係者・警備隊員・保安隊員・協力会社、また行政や警察を含む産学官民が集う街づくり活動メンバー、皆で協力し合いながら様々な課題を克服しいくことで人としての成長にも繋がっていると強く感じます。
我々の活動はまだまだ道半ばです。地域の方々の安全の為にも、仲間の幸せの為にも、そして自らの為にも、引き続き関係者との絆を大切にしながら防犯活動を継続していきたいと考えております。

連載に関するご感想、ご相談はこちらまで(万防機構サイト)
https://ssl.alpha-prm.jp/jeas.gr.jp/contact2/