やけくそ万防日記11 万引きもグローバル化?

この3月17日付の福井新聞には、「ベトナム人6人が8県で万引、被害1250万円 技能研修生として来日」という見出しの、驚きを隠せない、しかし、ありうべしという内容の記事が掲載されていました。福井県警が昨年検挙した女性のベトナム人(30歳)は福井県内などで総額648万円の万引で立件されたのですが、これ以外に福岡県など8件で109件、被害総額1258万円の万引犯罪で立件されたということです。対象は主にドラッグストアーで、化粧品や医薬品を盗み、これをSNSなどでベトナム人向けに販売していたということです。この6人はいずれも技能実習生として来日し、実習先を抜け出した後に知り合い、集団で万引きを繰り返したそうです。これらは証拠があって立件できたものだけであって、事情があって警察に届けられていなかったり、被害の日時などの特定ができなかった事案が相当数あるだろうと推測されます。
よくも1年もの間同じ犯人グループにやりたい放題やられたものだ、もっと早く何とかならなかったのかという思いもあるのですが、実習先を抜け出した理由や異国でのその後の彼らの生活ぶり、これからのことを思うと、何ともわびしい気持ちになるのは私だけでしょうか。
犯罪のグローバル化といわれて久しいのですが、こと万引に限ってそのような観点から興味をもたれたことはなかったと思います。ところが、この数年、わが国に日本語を勉強に来たり、研修生として働いている外国人の中に、万引きをして捕まる、主に若い人たちが急増してきました。それに万引きされた物が海外で値札付きで売られている店が登場するなど、この分野も例外ではなくなってきました。平成28年に警察が検挙した外国人による万引きの件数は2711件で、その半数以上がベトナム人によるものです。ベトナム人による万引きは、平成26年から高止まりが続いています。警察統計によると、検挙されたベトナム人の検挙件数は、平成25年814件、平成26年1,434件、平成27年1,841件、平成28年1,412件、平成29年2,037件、30年1,793件となっています。
これを知った時、私は驚きました。ベトナム戦争の時に学生時代を過ごした世代の人間は、あのアメリカに対して粘り強く戦い続けたベトナムという国と国民に、政治的立場の違いを超えて、驚異の念と敬意をもったものです。そのベトナムの若い人たちがなぜ万引きをするのか、首を傾げました。
でもすぐに理解できました。日本に来るベトナム人の中には、ブローカーに騙されて、日本に行けば勉強しながらアルバイトをし、借りた金も程なく返せると言われ、200万円ほど借金して、希望に燃えて日本に来る者が多数いるのです。しかし、彼らは入国後直ちに、現実はそんなに甘くないことに気づきます。しかし借金は返さねばなりません。国には父母がいて、ブローカーから責め立てられます。何とかしなければならないと窮地に陥ります。そこへ、悪魔の手が伸びてきます。「良い儲け口があるぞ。有り余っている店の商品を少し頂くだけだ。彼らもそんなに困らない。もし警察に捕まってもたいしたことにならない。ベトナムに帰らなければならないことには絶対ならないから。」と説得されます。その誘いを断りきるほど彼らに知識も、余裕もありません。大方はこういう経緯で万引きグループに加わるのです。
私が東京都副知事をしていた平成15年ごろを思い出します。その頃は中国人の若い人たちがピッキングという手口で、空き巣をしていました。鍵穴に鉄片を差込み、巧妙に鍵を開けてしまう手口です。あっという間に、被害件数が年間1万件をこえてしまいました。その若者たちも、同様に、日本語学校の生徒が多かったのです。
しかし、それは程なく劇的に減少しました。それはどうしてでしょう。その対策は万引きに活かせないのでしょうか?
ピッキングをする中国人の中には、侵入した家の中に家人がいたときに、時に彼らを傷つける強盗に早や代わりします。その手口の凶暴さもあって、警察は重要事犯として徹底的な取締りをしました。また、それらの事案をマスメディアは大きく報道し、国民の関心が集まりました。家々の玄関の鍵はピッキングされにくい丈夫なものに変えられ、日本語学校にも警告が繰り返しなされました。そのため、この種の事犯は5~6年で激減することになったのです。
それでは万引きも?残念ながらそうなりそうにありません。お分かりいただけるでしょう、たかが万引きです。警察は、そんなには力が入らないのです。この種の犯罪を組織犯罪として重要視して、警察全体で取り締まりを強化しようという動きは、今のところないように思います。最初に紹介した福井県警の事例は、かなり例外的で、福岡県警ともどもよく解明してくれたし、報道発表してくれたと思います。先に書いた通り、多くのベトナム人が検挙されていますが、彼らはほとんど集団で組織的に万引きしているはずですから、もっと組織的な解明がなされてよいように思うのですが、おそらく、現場で捕まった犯人を処理するだけで、組織的な解明をしようとしないか、出来ないかというところでしょう。
マスメディアも、一般的には、警察が発表したもので面白そうなものは取り上げるが、警察に感化されてか(失礼)、我が国の安心安全を揺るがしかねない課題として捉え、積極的に取材して取り上げようという記者はあまり見当たりません。ですから、この種の事案が報道されることは多くはありません。地方で検挙された時に地方新聞がさすがにお書きになることはあるという状況だと思います。被害者の対応もイマイチなのがその背景にはあると思います。被害者が大声で騒ぎたて、世の中に助けを求めるほどには至っていません。
こういう状況が続く限り、検挙してもたかが万引き、微罪で始まる、犯罪に甘い国日本を続けることになるでしょう。たとえ、検挙しても、彼らが入国管理法に違反していれば別段、そうでない者で強制的に国外退去されるには1年以上の懲役の実刑判決を受ける必要があります。その例は微々たるものでしょう。
社会全体がどうしてもこの種の犯罪を抑止しなければという状況には至っていないのです。万引きへの対処はこの点でも難しい問題を抱えているのです。こう書いていてもいやになりますね。しようがないのか、あきらめるほかないのか、この国は万引き天国かと、思わず、頭を垂れそうになります。
でも、この犯罪グループが犯すのは、万引きにとどまらないと考えるのは間違いでしょうか?既にその兆候は見えています。彼らの中には偽造された在留許可証を持っている者も出てきています。万引きで得られる金は個人としては大きくはないだろうと思います。万引でうまくやっている連中の中には、もっと大きな金を得たいと考える者が出てくることは容易に想像できます。わが国の治安に大きな影響を与えるおそれは見えているように思います。
それに、わが国で万引きされたものが、ホーチミン市で値札付きで売られていることがわかっているのに、なんともできないのではなめられたものです。警察には誇りと危機感を持ってほしいと願わずにはいられません。
ところで、海外では万引きは大きな問題ではないのでしょうか?
いや、いやそんなことはないのです。次に紹介するのは、フロリダ大学やイギリスの調査機関が行った2014年の万引きに関する調査です。いくつかの業界の主要な企業の協力を得て、精緻な統計手法を用いて、それぞれの国全体の万引きの被害総額等を推計したものです。これによると、日本は約1.0兆円、アメリカは約3.0兆円、中国は約1.9兆円などとなっています。この推計を私はかなり信憑性の高いものではないかと思っています。それは、前にも書いたように、当機構の約10年前の推計やアメリカのFBIの推計と大きくは変わらないからです。
そしてそれらの国々でも万引き対策は重要で困難な課題となっているのです。次回に紹介しましょう。

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