やけくそ万防日記12                 アメリカ関係者とのボカラトンでの歴史的会議  

どの国も万引き問題は小さくはないようですが、本当のところはどうなのだろうと思い、2015年10月に、マイアミの北にある古い漁港を持つボカラトンに出向き、アメリカの小売業者や警察の方々に万引き問題の専門家、学者など約20数名の方々と意見交換しました。こんなにたくさんの方々が来られたことに驚きましたが、ドラッグストアー、アパレル、百貨店等の皆さんもお見えになられた。
その方々との話し合いは私にとって、目からうろこと言ってよいほど刺激的なもので、ぼんやりしていたことがかなりクリアーになった画期的なものでした。その内容の詳細は、当機構の冊子にまとめてありますが、要は、万引きによる被害は、小売事業者の株主が関心を寄せる、ロスプリベンション上の重要な課題であり、重要な経営課題として株主総会での質問事項でもあるという、わが国にはない事情があるということです。株主を納得させるために、経営の最高幹部が万引き問題に関与し、これを解決する効果的な努力をすべきものとして位置づけられているのです。ですから、小売業の経営者としては万引き問題を放置しておけない、それがアメリカの小売業の万引き問題への出発点になっているのです。なるほど、アメリカの株主はしっかりしている、万引きのために企業の利益が減れば、配当に影響すると考えるのです。
ですから、小売業の経営者としては、万引き問題で力のある者を採用し、これに適切な地位を与える必要があります。警察やFBIその他の刑事問題の専門家が引き抜かれ、そのうち優秀な者はロス防止担当の役員、副社長や専務取締役として登用されているのです。この会議にはそういう方も数人参加されておりました。日本では万引き問題の責任者の社内の地位は、アメリカに比べれば格段に低いですし、警察のOBが採用されてそれなりの役割を果たしていますが、どうもそういう観点で採用されてはいませんね。
アメリカでの万引問題の位置づけは、治安問題とともに経営問題として重要な課題になっている、それだけ万引問題は深刻だということです。
その国でどのような万引対策をしているか、次に紹介したいと思います。

(アメリカの合理的な対処)
アメリカでもっとも大きな問題として扱われているのは、組織的万引きです。大きな組織としては100人以上の者が構成するものも摘発されています。何も難しいことをしているわけではなく、末端の万引き実行犯、これを向こうではブースター(booster)と呼びますが、これに組織が指示した物品を万引きさせ、指定したところに持ってこさせ、これを別の人間が、買取り業者、これをフェンス(fence)と呼んでいましたが、に持ち込み換金します。これが組織の金庫番に集約され、組織員に分け前が与えられます。
そういう組織ですので、末端の実行犯を捕まえるだけではこの組織はなくならない。そこで、小売業者は考えたのです。まず、自分のところで捕まえたブースターを説得し、彼らの知っていることを白状してもらう、その仲間も、盗品の処分先もわかるだけ情報を収集する。自分の企業の店舗情報を州単位で整理する、そこであらかたがわかれば、次に他の企業と情報を交換し、その組織のいわばチャ-トを共同で作り上げる、それを警察やFBIに持ち込み、捜査を促すというやり方で多くの万引組織を壊滅してきたそうです。その他の万引きはどうするのですかと聞きますと、少年もいるし、出来心で万引きする者もいるが、その人たちは、自ら民事上のペナルティを課すか、再犯防止の教育をするか、親を呼び注意するなどするが、いずれ、自分たちで片をつけて、忙しい警察の手を煩わせることはしない、それをしても警察はたいしたことはできないし、自分たちも時間と労力がかかるだけだと割り切っているのです。そして小売業者がお金を出し合って大学に口座を作り、研究所を作り、万引問題のちょうど日本の万防機構と同じ団体を設立運営し、小売業の実態を彼らに伝え、どうやれば万引きが減らせるのか考えてもらって、民事上の制裁を課すために必要な法律を州政府に作ってもらうことや地域での万引問題の対策会議を設置するなどしているのです。
なるほど、合理的だと思いませんか?日本では万引きを見つけて店舗はそれを警察に連れて行って厳罰に処してくれることを願っているが、たいていそうはならず、多くの人がもやもやしたものを持ったまま、あてもない取り組みを続けていると感じられませんか?あまり合理的でない思い込み、「お客様は神様」「万引きされたことを公表しては店の信用に傷が付く」「ライバル会社と万引問題で協力することなどありえない」「万引きは犯罪だから警察がもっとしっかりやるべきで、事業者に負担をかけるべきでない。」などに縛り付けられ、レベルの低い対応を続けていると思われませんか?事業者どうしが万引問題で協力することをせず、万引を防止するための研究や調整をする専門的な機関を作ろうとせず、わずかにその役割を果たしている当機構にもろくな資金を与えず、よくぞ万引防止に努めていると言えますね、そのように感じました。
私は本気になって万引き問題を考え直す気になりました。警察との関係、被害者同士の協力、地域全体での取り組み、盗品処分先問題の解決、民事的ペナルティを課す手法その他見直すべき事柄を鮮明にしてくれました。これから書こうと準備している、全件通報に関する問題など多くの点が、この時の衝撃を反映しているのです。
私ばかりではなく、ご一緒した首都大学東京の星先生も同様でした。この衝撃を日本の多くの方々に伝えたい、そのことを通じて、日本の万引き問題に大きな転換点をもたらすことができるのではないか、この思いが、2017年の日本での国際会議の開催の原動力になったのです。次回はその国際会議について書いてみます。

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