やけくそ万防日記15                    万引犯検挙をめぐるいくつかの問題  

これまでにも万引犯人の検挙の意義や困難性などについて折々に書いてきましたが、この際、まとめて以下に記しておきたいと思います。

(万引犯を捕まえるのが最良の万引防止策?)
万引きを防ぎたいと万引Gメンを雇い、万引犯を捕まえて警察に突き出すことが最善だとお考えになる経営者もおられます。この店舗で万引すれば必ず捕まり、警察に突き出されるから、この店では万引きをあきらめようという気にさせることが一番だとお考えになるのです。
確かにそういう側面はあると思います。が、これを忘れておられませんか?一つは相手もさるものだということです。Gメンの目をかいくぐることは、簡単とまでは言いませんが、彼らの技術の範囲内です。それに広い店舗、閉店までの長い時間を完全にカバーすることは難しいでしょう。たくさんのGメンを雇わなければなりません。お金がかかりすぎます。犯人たちはGメンの存在を良く見ているものです。閉店間際、お昼時など手薄な時をよく調べています。それに、万引犯を警察に突き出すと、とても時間がかかり、その日はその1件の処理で万引Gメンは店舗にいないということも考えておかなければなりません。ですから、経営者の思うように、うちの店では万引きしたら必ず捕まると言われるようにできるいうのは楽観的過ぎるのです(万引きしにくい店だという評判は立てられますが、それは防犯カメラ等ハード面での充実、店員の効果的声掛け、確保した際の厳しい対応など万引防止に敏感な店と感じさせる雰囲気づくり等々様々な取組みの総合力によるものです。)。
さらに、捕まえて警察に突き出しても、その犯人が逮捕され、裁判にかけられるとは限りません。むしろ、そうでないことが大半だと言ってよいでしょう。警察に突き出されるからこの店では二度と万引をやらないと犯人が考えてくれると思うことが、また楽観的過ぎるのです。前にも言ったように、万引は刑事司法の世界では多くの場合微罪に過ぎないのです。これまで警察に通報されたことのない者なら、まず、微罪処分と言う警察限りの注意がなされるだけです。だって、やったことは多くの場合数千円の品物を万引きしただけで、それを持ったまま捕まるのですから、被害品は返ってきます。捕まった方は、「出来心で、やってしまいました、はじめてです。」と言うのですから、これを覆す証拠でもない限り、警察が叱責しておしまいです。店の方が、「この人はこれまでも何度もうちで万引きしているのです。私たちは見ているのです。」と訴えても詮無いことです。「今度捕まえたら厳しくやるから」と慰められてしぶしぶ引き下がるのです。もっとも最近では外国人による組織的万引事犯に警察が関心を寄せ始めており、その点は少し期待が持てるのですが。
元警察官が言うのですから間違いありません。これを見て、警察はけしからん、苦労して捕まえたのに、もっと厳罰に処すべきだと言っても、警察が扱う様々な事件を考えれば、この状況を変えることはまずできないと言ってよいでしょう。
しかし、それでも警察に通報することに意味がないとは言えません。その場はそう扱われても次は一段厳しい措置がとられることを期待できるからです。ですから、警察には全件通報すべし、というのが当機構が今まで示してきた方針です。
さりながら、刑事司法の厳しいご沙汰を待っていては万引きは減らないでしょう。万引きされて何度も捕まえてやっと厳罰というのでは、おそらく一つの店舗で100回(犯人によりけりですが)やられてやっと厳罰と言っても過言ではないでしょう。刑事司法の運用を変えるのは至難の業です。そこで争っていても万引犯の思うつぼです。それでよいのか、皆さんならどう考えますか?
この問題は、電車内での痴漢問題と似た面があります。痴漢の被害者の女性の恐れや嫌悪感は想像に難くありません。他方で、この犯人を検挙し、裁判に持ち込むには困難な問題があります。軽微な犯罪ではないが、痴漢犯罪の立証は簡単ではないからです。被害者が現場で犯人を押さえたとしても、その犯人がそれを強く否定すれば、裁判でもどちらの言い分が正しいのか判断が難しいのです。疑わしきは罰せずという刑事司法の原則が適用される場合もあるように思います。そこで、私が東京都にいたとき、事業者の方々の理解を得て、女性専用車両を作っていただいたのです。被害者にとっては被害にあわないことが一番ですから。特に一度被害にあった方は電車に乗るのも嫌だと思われていたのですから。それは一定の効果があったと思いますが、他方で、検挙の努力も大事です。最近では、車両内に防犯カメラを設置して防犯や検挙に役立てる動きも広がっていると聞きます。捕まるのがいやだと犯人は思っているのですから刑事司法で厳罰を下すという道は依然として追求されなくてはなりません。
万引犯罪は、証拠が明白でも軽微であるために刑事司法に頼っていてはその被害が防げない、では、どうするかという風に考えることが大事だということです。警察に頼らない自衛策をしっかりと追求するとともに、常習万引犯、悪質万引犯に刑事司法を適用して厳罰に処するために警察と連携を強化することも重要だというのが私のスタンスです。
冒頭に述べた経営者も次第にそのことに気がついてきます。そこで、捕まえるより、盗らせるなという方針が出てくるのです。雇った万引Gメンの目的が大きく変わります。店の側が示す課題も、「何人万引犯を捕まえた」から、「どれだけ万引被害を減らせたか」に変わるはずです。既にそのことに気づき、万引Gメンとの連携もうまみに構築しておられる事業者もいると聞いていますが、そうでないところも多いのが実情です。そうは言っても、確保した万引犯は許せないと思うのはもっともなことです。たかだか万引ぐらいでとうそぶく犯人ややり方から見てはいじめてではないと思われるのに「はじめてです、出来心です。」という犯人には厳罰を受けてほしいと思われるのは当然のことです。さあ、どうしたものでしょう。店の方々、経営者の方々、しっかり考えてみませんか?

(店内確保は万引きにならない?)
「せっかく捕まえて警察に通報したのに、確保した場所が店内だから万引きにはならないと言われたよ。あいつが商品をバッグに入れて隠したのを見たのに。」と嘆き、当機構に質問を寄せる方が少なくありません。中には店外に出なければ罪にならない、何もできないのだと思い込まれている方もおられます。
これも万引きをめぐる迷信の一つです。刑法第235条の窃盗罪は、「不法領得の意思を持って占有者の意思に反して財物の占有を取得すること」です。ですから、盗ろうと思って隠した行為があれば店内かどうかを問わず、その時点で既遂です。通常のお客様なら自分のかばんに入れたり、コートの中に隠すような行為はしません。ことに買い物籠が用意してある場合はそう言い易いでしょう。まして、そのまま店外に出ようとすれば、はっきりと領得の意思が認められるでしょう。
では、なぜ、警察は、店外確保を求めるのでしょう。確かに、「俺は買うつもりだった。」という弁解がありうるので、そうではないと言える証拠が必要です。買うつもりだったとは到底言えないようなやり方で、それが防犯カメラに映っていれば、わざわざ店外に出るのを待たずに万引犯として店内で確保しても、警察はこれなら裁判でも大丈夫だと自信を持って対処してくれるでしょう。
要は、窃盗罪を犯したといえるかという問題と、それを立証できるかという問題を混同していることから混乱が生じているのです。
これまで、彼らが店外に出るのを待って捕まえようとして逃げられたり、大変な揉み合いになったりして事例はたくさんあります。そこまで苦労して捕まえて、警察に持っていったら微罪だからといって即釈放では割に合いませんね。
それに、賢い万引犯は、盗っても店外に出るまでは捕まらない、店内で見つかれば、買うつもりだったとか、基に戻すとかでたいしたことにならないと思っていて、どうやって店外に持ち出すかだけ考えればよいと知っているのです。
そこで、「隠したら、店を出ずとも窃盗犯」という当機構の作製するポスターが店舗内に貼られるようになったのです。
店内でも盗ろうと思って隠せば窃盗犯であることは違いないのですが、警察としては,これを事件にするうえで明確な証拠がほしいのでしょう。おそらく検察官にもそのように言われるのではと思います。それは刑事事件の取り扱いとしてはわかるのですが、その意味は、店内確保は万引きを証明しにくいということで、万引きにならないという意味ではないのです。ですから、店を出るまではそんな客も神様として扱い、声もかけられないということではありません。それは犯罪者が逃げてから捕まえろというようなもので、店側の負担は大きすぎるでしょう。店の商品を守るために、自衛措置を講じる、例えば、「お客様、レジは向こうにございます。」などと声をかけてみる、「何かお探しでしょうか?」などと質問することも必要でしょうし、出来ることです。それで犯人が隠した商品を買えばよし、返してもよしという対応は理解できるものです。もちろん、この犯人は悪質だと感じ、警察で厳罰に処してほしいと思えば、警察の要望を頭において対処することが必要です。その際、店外に出ずとも犯人の行為が盗ったと言えるようなもので、それが防犯カメラなどに録画されているなどの証拠があれば十分だとお考えになって良いと思います。
頭を悩ませている店舗の皆さん、あきらめないでください。相手もプロ、こちらも腕を上げなくてはなりません。そして何よりも商品を守らなければなりません。

連載に関するご感想、ご相談はこちらまで(万防機構サイト)
https://ssl.alpha-prm.jp/jeas.gr.jp/contact2/