やけくそ万防日記16                   万引犯の警察への全件通報についての議論のたたき台(その1)

この万防日記も終盤に差し掛かっています。この6月18日に、当機構の総会が開催され、その際に当面する万引対策の成果と課題を報告し、皆さんと意見交換する予定になっており、それを報告することがこの日記の最終稿になります。それまでの間、今まであいまいにしてきた警察への全件通報の問題について私の見解を述べるとともに、かねてから検討してきた渋谷プロジェクトについて書いてみたいと思います。
(全件通報とは何を指すのか。これについての警察の現場対応)
万防機構はこれまで全件通報の立場をとってきたということを書きました。一方で、捕まえるより商品を守る自衛措置が大事だとも書きました。実は、私自身もクリアーでない部分を残しています。この際、問題を整理して、皆が納得できる方針を考えてみたいと思います。
まず、全件通報というのは、万引きで店舗が確保した犯人はすべて警察に突き出すことです。犯人を確保できずにそれでも万引きだとわかる場合もこれに含めて考えましょう。追いかけたが逃げられた、後で防犯カメラを見たらこの人にこの商品を盗られていたことが分かったというような場合です。
後者の場合は、被害店舗が被害届けを警察に出し、被害の状況を含めて説明し、資料を提供すれば1件落着で、それほど時間はかからないと思います。この被害届の提出をきっかけにして、警察が捜査を開始して犯人の検挙にいたることはあまり期待できませんが、その犯人が別の事件で検挙されたときに大いに役立ちます。余罪として処理され、犯人の悪質性を証明することになります。
ただいつ盗られたかわからないのに、棚卸をしたら商品の数が合わない、これは万引きされたかもしれないと届け出ることは警察にとって困りものです。本当に万引きされたかどうかわからないからです。これを当機構が推奨しているのではありません。
本題に戻りましょう。犯人を確保しても、これを警察に突き出すことには結構手間がかかります。警察に行くまでに逃げられないように、不測の事故が起こらないようにするためには、複数の店舗従業員が必要になる場合もあるでしょう。そして警察に行けば、どうなるでしょう。警察の対応をよくイメージしておくことがスムーズなやり取りを可能にします。
まず、待ってましたとばかりに、突き出した方の言い分通りに、素早く対応してくれることは期待しない方が良いでしょう。日ごろからよく知っている協力的な警察官がいれば別段、かなりの場合に、手を取られる面倒な案件を持ち込んできたな、しようがないなと思う警察官も少なくないと思います。警察の世界では万引きはいくら処理しても特段褒めてくれる犯罪ではないからです。もちろん、犯人を連れてきたわけですから、いい加減に対応することはないはずですが、万引犯とは言え、犯罪者として扱うからには守るべき様々なルールがあります。それを遵守するのには時間もかかるのです。
例えば、被害者の言い分をうのみすることは間違った処理を行う原因となることが多いことから、彼は本当に万引きしたのか、疑いの目で店舗の方に尋ねてくることもあると思います。これも嫌なものです。自分たちは被害者なのに、何だその聞き方はと腹を立てます。挙句の果ては、それは万引きにならない、証拠がないじゃないかと被害届をなかなか受け取らないこともないわけではありません。せっかく苦労して確保して持っていったのに、なんだと憤慨する方が出てきます。
これはあってはならないことですし、そんなことは多くはないと思いますが、本人も反省しているし、被害品も返ってきているのだから、今回は勘弁してやれと言わんばかりの警察官もいないわけではないでしょう。
警察の方はそんなことはしないと言われますが、私たちにはそのような話がたくさん来ています。かなり地域によって差があるように感じますが、少なくともそのように扱う理由を店舗の方が納得できるように説明してはいないと言えるでしょう。
次に進みましょう。警察が被害届を受理し、正規の手続きに入った場合に、どのように取り扱われるでしょう。もし、犯人がこれまで微罪処分を一度も受けていないのであれば、通常は微罪処分といって、警察限りの注意処分となることが多いと思います。書面で処理しますので、ただ口頭で注意するというものではなく、本人は罪を認め、2度としませんと反省した文書に署名捺印することが求められます。この場合被害届は正確に書く事を求められますので、少し、時間がかかりますし、慣れた警察官とそうでない方とでは自ずと処理のスピードが変わります。仕方のないことです。
微罪処分ではなく、通常の事件処理をする場合は、犯行の状況や、目撃の状況、確保の状況等を店舗の従業員から聞き取ります。供述調書をとります。この手続きに入ると時間がかかります。時に犯人が犯行を否認した場合などは特に慎重に捜査します。2時間を超える場合も少なくないと思います。警察では、これを短縮する工夫をしてくれており、改善されてきたことは間違いないと思うのですが、それでも画期的に短縮されたという被害者サイドの声は聞こえてきません。中には極端に長時間を要したケースが連絡されてきます。警察官にも経験のある方とそうでない方がおり、また、被害者の態度も影響して、いつも短時間で被害者の納得のいくような処理をしてくれるとは限らないことを知っておくことが、ストレスを少なくすることにつながり、かえって警察との関係をスムーズにし、早期に事案の処理が図れることにつながる面もあると思います。警察の建前としては、犯罪を犯した人を確保したのですから、警察に届け出てくださいということですが、現場サイドではこのような事情もあるということです。毎日のように万引犯を連れてこられると、つい、万引きされないように自衛措置をしっかりやってよ、警察は万引きばかりやっているわけじゃないんだからと言う警察官もいることは想像に難くありません。対応する警察官が万引について十分な知識を持っているとは限らないということも知っておくべきです。
さて、店舗側の事情はどうでしょう。犯人を確保した店舗は全件通報できるでしょうか?私の知る限り、店舗によりけりです。万引きの多い店舗はとても全件通報はできない、悪質だと思われる多額の万引犯、組織的な万引犯は必ず通報するが、それほどでもないと判断すれば、店舗で犯人にお詫びと今後はやりませんなどの誓約書を書いてもらって処理する事業者もあります。また、店の忙しい時間帯に数時間も店舗の従業員をとられるのはとてもできないので警察に通報したいができないことも多いというのもよく理解できます。
犯人が高齢者で認知症と言われるととても警察に通報する気になれない,子供だと警察も何もできないから親に連絡して引き取ってもらうようにしていると対応に苦心しています。
このように見てくると、全件通報は被害店舗にとって、やりたくても実現不可能なことのように思えます。忸怩たる思いをお持ちの方も少なくないと思います。警察に届けるべきだと思うのにそれができない、ストレスがたまることです。犯人の中には、何だか反省しているとはおもえないような者もいます。でも店の状況では万引処理に今は時間を費やすことはできない、どうしようもないと暗澹たる気分になることも十分想像できます。この状況は、店舗の従業員にはつらいことだと思います。こんな思いをするぐらいなら、万引きは見てみぬふりをした方が良いと思う従業員が出てくることもまた無理からぬことです。これは万引常習者の思う壺で、彼らの世界ではこういう店は万引きし放題の店としてすぐ知れ渡るそうです。
全件通報という原則的な考え方は重要だとわかりつつも、被害者サイドにも警察サイドにもいろいろの事情があり、原則的対応を強調してばかりでは事態を改善することにはつながりません。さて、どのようにすればよいのでしょう。次回に私の考えを説明しましょう。

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