やけくそ万防日記トピック5 ベトナムとベトナム人    ロスプリベンションに思いを寄せつつ

全国万引犯罪防止機構の取組みの中心となっている課題の一つは、ロスプリベンションをわが国でどのように根付かせるかです。企業のロスは利益に直結する問題で、アメリカではロス問題は株主総会で取り上げられる重要課題となっており、そのために企業としては専門家を重要な幹部として配置していることはこれまでも何度か書いてきたことです。もちろんロスには万引きによるものもあれば内部犯行によるものもあるのですが、その状況は多くの企業でよくわかっていないのが実情です。ここにメスを入れて取り組みたいというのが、2017年の国際会議での共同宣言の一つを構成しているのです。
この責任者は、当機構の近江理事です。この道一筋と言ってよいぐらい我が国のロスプリベンションに人生をささげてきた先達の一人です。彼は、当機構で直ちに取り組みにかかり、多くの事業者や専門家のご支援を得つつ、店舗の従業員、責任者向けの万引対策教育用のビデオを作り上げ、今年に入ってすぐにリリースし、既に多くの小売事業者から引き合いが来ている優れものです。当機構のホームページに紹介してありますので、ご覧ください。
その近江さんが過日ベトナムを訪れ、私たちに興味深い話を聞かせてくれました。彼の言葉で次に語ってもらいます。そして、ロスプリを着実に行い、万引被害を半減させた大手小売事業者の担当者の感想を末尾に紹介します。

「ベトナムといえば、「ベトナム戦争」との印象を持つのは筆者だけではないだろう。(筆者の年代がわかるだろうけれど)そのベトナムも1976年の南北ベトナムの再統一以降、紆余曲折はあったものの、1995年にはASEANに加盟、社会主義に市場経済システムを取り入れるドイモイ政策で経済成長も著しい。ベトナムには、日本の小売業も積極的に参入している。日系の複数のコンビニエンス・ストア・チェーンは都市部で店舗数を増加させている。また、大型の商業施設では、イオンモールが、ホーチミン市近郊に3箇所、ハノイに1箇所で既に事業を展開しており、更に増やす計画となっている。イオンモール内にはまた日本企業のチェーン店の出店も多い。
今回、初めてハノイに行く機会があった。店舗の防犯設備や防犯ポリシーは、国や地域によって様変わりする。イオンモールに出店しているダイソー(40000ドンショップ)には、カバンやバッグを持ち込むことができない。事前に備え付けのロッカーに私物を入れてからでないと買い物ができないのである。また、昨年12月にオープンしたフジマート(住友商事とベトナムのコングロマリットBRGグループが設立したフジマート・ベトナム・リテールの1号店)という食品スーパーマーケットには、防犯ゲートが設置されている。高額で万引き被害の恐れがあるのは酒類だろうか。防犯ゲートを機能させるためには、防犯タグを取り付ける必要があるから、生鮮品などには使用していなのかもしれない。日本ではこういった設備は食品スーパーマーケットでは一部の店を除いてあまり見られないものだ。
一方、多くのベトナム人が技能実習生、留学生として来日している。一説には20万人以上とも言われる。更に日本における店舗での窃盗での外国人検挙者は圧倒的にベトナム人が多いのも事実である。検挙されるものは、特に集団窃盗グループに所属するブースターと呼ばれる実行犯であることが大半であろう。以前ホーチミン市を訪れた時に、車で移動中にユニクロの小さな看板を見たことがある。ユニクロはベトナムには進出していないから、それは、ハンドキャリーか何かで持ち込んだものを販売している店なのかもしれない。(販売品が盗品なのか店舗で購入して持ち込んだものなのかは定かではないが。)
だからといってベトナム人に問題があるという短絡的な見方は誤りである。多くのベトナム人は、順法精神に富み、真面目に働いている者も多い。
実際、筆者は、ホーチミン市である企業の店長およびマネジャー向けの商品管理についての講義をしたことがあるが、大変熱心に学習する多くの若者たちの姿にその熱意を感じた。また、来日しているベトナム人留学生も週28時間までの勤務が認められているが、留学生の大半は、そういった犯罪に手を染めずにがんばっている。(就労目的の留学生が存在することも事実であり、それらを問題視する議論もあるのだが。)
人間は環境の生き物である。犯罪が起きるのは、その環境の問題によることが多い。大半の人間は環境次第で、犯罪者にもなりうる。だからこそ、環境を整えることが重要なのである。店舗における窃盗などの犯罪の原因の調査研究の事例はさまざまあるが、ここではその理論のひとつを紹介したい。「日常活動理論」(Routine Activities Theory)という。「ロスプリベンションで未然に防ぐ~小売業のロス対策」(リード・ヘイズ著)から引用する。

この理論は人々(犯罪者予備軍、従業員、支援者ら)が日々どのように行動し、行動しないかを決定するかを示している。彼らの日々の習慣、進路、環境を基本にして、犯罪者予備軍が適当なターゲットに近づこうとしないかするかが決まる。そのひとつは防犯体制の甘さとリスクである。例えば毎日コンビニエンスストアに通っている(これが日常活動)潜在的な犯罪者はある日その店は人手不足で、従業員は忙しくすきだらけ(ねらいやすいターゲット)であることを知るかもしれない。この日常活動と最適なターゲットとの組み合わせが犯罪の舞台を整えることになる。
1990年代、ブランティンハム夫妻は日常活動理論を拡張発展させて環境犯罪理論と名づけた。それは犯罪者と被害者による意思決定と行動がどのように犯罪を導くかを説明している。ブランティンハム夫妻は犯罪者の活動場所(住居、娯楽場所、仕事場/学校)と被害者に強い関係があると信じている。犯行は日常犯罪者が通る経路で発生することが多い。
(「ロスプリベンションで未然に防ぐ~小売業のロス対策」(リード・ヘイズ著)の134ページより引用)

詳細は同書を参照されたいが、繰り返しになるが、環境を変えることで犯罪は防げるということだ。犯罪はその人が起こすものであるが、必ずしもその人となりが真因とは限らない。むしろ、そういった犯罪が起きやすい条件、すなわち犯罪に脆弱な環境によるところが多いのである。我々がやらねばならぬことは、そういった環境をつくりあげ、維持継続する努力を怠らないことである。」

皆さんいかがでしょうか。ロスプリベンションの問題で興味深い経験談が寄せられています。匿名であれば皆さんに紹介してくれて結構だということでした。私はその方をよく存じ上げており、その情熱や知恵には敬服しておりますが、企業の一員としてできないこともあるという彼の言い分を受け入れざるを得ません。早くこんな状況を打破したいものです。
「ある流通業者の盗難対策担当者のつぶやきとして、関係者の皆様に少しでもお役に立てばと思い執筆させていただきました。
『ロス対策が進まない原因は、全て盗難対策を行っている警備の怠慢だ。』
これは、私の社内でのロス対策会議中に言われた言葉です。
この言葉を聞いた時、理事長の日記は『やけくそ』ですが、私は『なにくそ』と思い、この言葉を胸に盗難対策を行い、この10年でロスを半減いたしました。
ロス対策担当の方は、まず何から対策を取ったら良いかわからない、社内に理解者は誰もいないと嘆かれている方が多いと思います。
ロス対策は、まず、全体のロス金額数値と構成(盗難は何割、納品ミスが何割など)の把握から始まります。ロスは1度に0になることはありません。金額を把握し、2割削減する提案を色々積み上げて下さい。
そんな提案が出来れば、苦労しないと思うと思いますが、販売担当は、毎日、お客様がどうしたら買ってくれるかを考え様々な提案を行っています。その様な提案も行えないのは、ロス対策側の甘えです。
でも、数値さえきちんと把握できれば、問題点が必ず浮き上がってきます。今まで、誰も手を付けていないのですから。
今回は導入としてここまでとさせていただきます。今後、皆様からの要望があれば、具体的な対策について、お話ししたいと思います。よろしくお願いします。」

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