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昨今では特に子どもを取り巻く環境は激変し、危険因子は増加の一途を辿っている。病気、事故、犯罪、災害、いじめ、虐待をはじめ、携帯電話利用によって出会い系サイトなどの有害情報の被害に遭うケース、いわゆるサイバー空間での危険も指摘されている。このような状況下、親が子どもの身を案じ不安に思うのは当然のこと。NPO法人子どもの危険回避研究所所長横矢真理さんは子どもを守るためにはどのようにすればいいのか、講演やサイト、出版物などを通して具体的な方策を精力的に情報発信し続けている。
わが子の安全から始まった市民安全学
横矢さんが子どもの危険について取り組み始めたきっかけは、ご自身が2人のお子さんに恵まれてから。
横矢さんもご主人も働いていたため帰宅が夜遅く、「いざという時にどうやって子どもを守ればいいのだろう」と考えるようになったのがきっかけ。
元来物事を突き詰めなければ気がすまない性分(ご本人いわく「オタクな性格」)だったため、まず自分の子どもを守るために役立つことを研究してみようと論文を書き発表するという研究活動に入った。
横矢さんの驚くべきところは、その飽くなき探求心である。
突き詰めて研究しないと気が済まない
20年前にまず横矢さんが始めたのは、当時流行し始めた抗菌防臭靴下の研究である。
それが本当に役に立つのであれば、子ども用にも商品開発できるのではないか、ではどういうものか調べてみようということで研究を開始。当時はネットもない時代。
横矢さんは友達とともに図書館に通い、メーカーに問い合わせ、スーパーで靴下を何種類も買い集め、靴下を小さく切り抜いて何種類かご主人の靴下に縫い付け、一日履いた結果どのくらいバイ菌が培養されるのかを実験したりした。
その結果、メーカーによって効果がまちまちであることが判明。
また使用されている抗菌剤は非公開だったが、調査してみると、アメリカで禁止されていた薬品が使われていた商品もあったことが判明した。
その他にも、メーカーが電話口でごまかして回答しないようなことも独自の研究で次々と解明していくと、危険性のある薬品が使用されている商品が他にも多いことにも気付いた。
そのようなものを子どもに使わせるのはさすがに良い気がしない。
「何も考えずに流行している物を使わせるような親にはなりたくない。良い物を選べる親になりたい。」という強い自我の目覚めがあったという。
この時に書いた論文が複数の団体の賞を受け研究活動は本格化していく。
その現場第一主義の姿勢は、大学や研究施設にいる研究者に引けを取らない。
最新兵器を駆使:強固なネットワークからHP立ち上げへ
横矢さんがインターネット上でのサイトをオープンしたのは1999年。
今年で10年を迎える。
当時、インターネットは黎明期にあった。
横矢さんはそんなインターネット黎明期以前からパソコン通信によって主婦間のネットワークを構築していく。
今でこそ珍しくないが、当時最先端であったチャット、掲示版でママ友達とコミュニケーションを取っていく中で、ママ友達同士、皆共通の悩みを抱えていることに気が付いた。
ひとつは、いざという時に子どもを守れないのではないか、という漠然とした不安を感じている親が多いこと。
2つ目は、子どもが危険な目に遭わないためにはどのようにすればいいのか、子どもを守るために情報が全然足りないと感じている親が多いことである。
情報は得ようと思えばいろいろな所から入手できるが、不適切な情報も多く、重要な情報にたどり着きにくい。
そこで、いろいろな所に散らばっている情報を集め、幅広く伝えることができないだろうか、インターネットを使って情報発信の拠点にしていこうと思い立ち、「子どもの危険回避研究所」のHPを開設した。
「子どもの危険回避研究所」の役割
「子どもの危険回避研究所」は、子どもが犯罪、危険に巻き込まれないような環境づくりをすること、子どもに危険回避能力をアップさせるための、ママさん達による研究機関として現在までさまざまなキャリアを築き上げてきている。
子どもを取り巻く危険を「犯罪」「いじめ・虐待」「病気」「環境問題」「災害」「事故」の6つに分類し、親として子どもを
危険からどのように守ってあげるかを地域全体で考えていくこと、子どもを守るための環境づくりとしてまず大人が何を、学校は何をなすべきかなど「子どもの安全・安心」の情報発信基地である。
子どもを守るのなら大人が四六時中見守っていることが一番有効かもしれないが、実際はそうもいかない。
そのようなときのために、子どもにいざという時の危険回避能力をつけさせ、親子一緒に環境も変えていこうというのだ。
ママ達の「不安の棚卸し」に役立てれば!
横矢さんは語る。
「ママ達に子どもを守ることについて何か不安に思っていることはありませんか?とアンケートに答えてもらって、『不安の棚卸し』というのをしてもらうようにしています。不安について箇条書きにしてみることで、考えがまとまってくることもあるので、それについてみんなで話し合ってみると、自分だけ悩んでいたようなことが、意外にみんな同じように悩んでいたりするということがわかってきます。そして具体策をみんなで考える。自分のできないことでもほかの人ならできるのではないか、ということで横に広がりを持たせていく。それを積み重ねることで不安感は減っていきます。それが研究所の役割と思っています。」と。
横矢さんの取り組みは多岐にわたり、PTA、教育関係者向けの講演を数多く行うほか、各行政機関の委員会の委員を歴任、多数の著書執筆活動など、まさに縦横無尽の活躍である。
気付きにくい危険が身の回りにいっぱい
横矢さんは、日常生活においてなかなか気付かないところでさまざまな危険が存在すると指摘する。例えば家の食器棚。
食卓のすぐそばにあって、地震が来た場合に頭の上に何か落っこちてこないか、食器棚が倒れてこないか。
そのような時のために上の方にあるガラスの食器は下におろす。
子どもは学校でも家の中でもとにかく走りまわる。
従ってガラスに突っ込む事故が多い。
それを防ぐためにはガラスには飛散防止フィルムを貼る。
またベビーカーにもさまざまな場所で危険が待ち構えている。
交差点で信号待ちをしている時、ベビーカーの赤ちゃんの足が走る車に当たりそうなくらい道路にはみ出ていたり……。
ベビーカーの全長が親の目線からでは捉えにくいためだ。
またエスカレーターにベビーカーを押したまま乗せるのも危険である。
ベビーカーの場合、ちょっとした段差など通りづらいと感じる箇所が多くある。
この課題についても、横矢さんは2008年に東洋大・川内教授のプレゼミでベビーカーによるまちあるきを行い、危険個所について研究を行った。
今年も10月26日に再度ベビーカーまちあるきを東洋大と実施する。 ここ数年、子どもを取り巻く生活環境は激変した。
携帯電話の普及、高層ビルエレベーター、新型家電製品等々。特に携帯電話については社会問題となっており、このような環境の変化に横矢さんは警鐘を鳴らす。
「携帯電話について、稼ぎのない子どもが料金を気にすることなしに際限なく使うことはおかしいし、小さな子どもから目を離して携帯ばかりいじっている若いお母さんもおかしい。かといって禁止すればいいというものではないし、正しく使えば便利な物ですから、危険性を理解したうえで保護者が判断して、子どもの目線に立った上でうまく生活に取り入れるように工夫をすべきです。」
母親、主婦としての目線での分析・研究は、専門家も行政も一目置く。
何よりも素晴らしいのはその“飽くなき探求心”である。
「子どもが被害にあう事件ばかり調べていると、気持ちが滅入ってしまって逃げ出したくなることもある。でも、子どもを守るためには落ち込んではいられない」。
その心意気こそ、全国の子ども達にとってもママさん達にとっても、また、市民安全学を目指す同士として誠に心強いものがある。
細身の美人先生には大変無礼なのであるが、心の優しい科学的思考の“肝っ玉母さん”、横矢真理所長さんの活躍を祈念してやまない。
(取材、文:日本市民安全学会会長 石附弘氏、編集部)
月刊「安全と管理」2009年11・12月合併号掲載 |